猫と花 第二部

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「チシヤどこいったんだろ.....」


ぱたり。
ドアを閉めたAはふぅとため息をついた。
部屋の主はどこかへ出かけているようである。
数時間前に見た夜空が綺麗だったことを思い出し、まだ足を踏み入れていない、屋上を目指すことにした。



ーーーーーー



父とよく見た星空。
ふと考えてみれば、自分の好きなものは父の影響が大きいのだなと気付き、心があたたかくなった。
そのおかげで先程の難関も乗り越えられたのである。
胸の中でそっと、ここにはいない父に感謝を伝えた。

中学二年生の春、両親が離婚してからはほとんど彼に会っていない。
離婚直後は母がかたくなに会わせてくれなかった。
きっと親権がどうのこうのと、色々あったのだろう。
自分が高校に上がるころには、父には新しい家族ができていた。
そんな中でも優しい父は久々に会おうかと何度も連絡をくれた。
父の幸せを邪魔してはいけない。
芸能の仕事が忙しいこともあって、すべて断ってしまった。
それ以降あちらからの連絡はほとんどない。
会っておけばよかったな。
最近よくそんなことを思う。
きっと、夢に見るからだ。
幸せだったあのころを。
自分が思っているよりも、強く強く記憶に刻まれている。
私をつくりあげた愛おしい思い出。

屋上の床に寝転がる。
見上げた夜空には無数の星が輝いている。
こんな満天の星空を見たのはいつぶりだろう。
暗闇の世界も、これだけは悪くない。
ここが東京だと忘れさせてくれる、そんな素晴らしい景色だ。


「どうせ花は散り 輪廻の輪に還る命」


口ずさんだ歌は夜空に消えていった。

ママ、Aの歌が大好きよ。

もう会えない母がそう言ってくれた。
優しいまなざしを思い出す。
最後に見た彼女は。
自分によく似たその顔は、笑っていた。


「苦悩にまみれて 嘆き悲しみ」


ごめんなさい、A。

謝らないで。
ママのせいじゃない。
行かないで。

これからは、好きなこと、沢山してね。

行かないで、ママ。


「それでも途絶えぬ歌に 陽は射さずとも」


叫ぶように歌い上げる。
はぁはぁと荒い呼吸を整えていると、いつの間にか隣にチシヤが立っていた。


「あ.........」

「特等席で聴かせてもらったよ。」

「.....声かけてくれればよかったのに。」


立ち上がり服についたほこりをはらう。
チシヤは穏やかな顔をしてこちらを見ている。
ふわり、彼の優しい香りがした。


「おかえりA。」

「.....ただいま、チシヤ。」



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