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日が落ち、ビーチ周辺はまた漆黒に包まれた。
「今宵も諸君らが勝利しカードを手に入れるのを楽しみに待っているぞ。」
ボーシヤが群衆に向かって演説している。
こちらをずっと見ている気がしたが、Aは決して目を合わさなかった。
少し離れた場所からチシヤが歩いてくるのが見えた。
「やあ。今日は同じげぇむ会場みたいだよ。」
「チシヤ!そっか、良かった……」
「蹴落としあうげぇむじゃないといいけど?」
はっとしてチシヤの顔を見る。
「きっと大丈夫。頑張ろう?」
「はは……相変わらずポジティブだねぇ〜」
パーカーのポケットに手を突っ込んで余裕ありげに笑うチシヤ。
さて、行こうか。そう言うとAに手を差し出した。
「……ふふ。」
「なにさ。」
「何でもないよ、行こ。」
チシヤの温かい手を握り、歩き出す。
ふと、ボーシヤの冷たい視線に気付いた彼は挑発するように口角を上げた。
“残念だったね。”
声に出さずそう口元を動かす。
舌打ちしたボーシヤはイラついたようにガウンを翻し、その場を後にした。
ーーーーーー
「運転できるの?」
「……できるよ。馬鹿にしてる?」
深い緑色のトヨタ・セリカリフトバック2000GTに乗り込んだAはチョークを引いてからセルを回しエンジンを始動する。
「この匂い懐かしい……お父さんが旧車好きで、小さい頃よく乗せてもらってたの。」
「へぇ、いい趣味じゃん。」
アクセルを何度か煽るとドドドッと独特なエンジン音が響く。
助手席に乗り込んだチシヤがダッシュボードに置いてある地図を広げ、目的地を指差した。
「団地……?」
「そうみたいだねぇ。……着く前にお陀仏にならないといいけど。」
「もう、大丈夫だから。安心して乗ってて。」
ふん、と息を吐くA。
チシヤはむすっとした彼女の顎に手を添えると触れるだけの口付けをした。
「……」
「何固まってるの?早く行こう。」
動揺するAをよそにチシヤは楽しそうだ。
顔を赤くしたAはギアを1速に入れると荒々しく発進する。
「おっと……本当に大丈夫?」
「……」
「おーい、聞いてる?」
「ちょっと静かにして。」
チシヤはやれやれと鼻で笑うと、怒った顔も可愛いねと囁いた。
「!!……もう、チシヤのいじわる!」
ギアチェンジをしていたAはまた動揺して手元が狂いそうになる。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
Aはそう心の中でつぶやいた。
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npng01(プロフ) - 初めまして。作者さんのお話にハマってしまいました。パスワードを教えていただきたいです☺︎ (4月28日 8時) (レス) id: c93a1c32d7 (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - 初めまして。チシヤが推しなので楽しく読ませて頂いてます!良ければパスワードを教えていただきたいです! (9月20日 17時) (レス) id: d73fb9ea10 (このIDを非表示/違反報告)
くろねこ(プロフ) - このお話とても大好きです!良ければパスワード教えて頂けませんか(т-т) (7月15日 8時) (レス) id: 3340ef99aa (このIDを非表示/違反報告)
日笑(プロフ) - とても楽しく読ませて貰っています!ぜひパスワードを教えて頂きたいです!!これからも応援しています!! (2023年3月4日 21時) (レス) id: d4c1bf10fe (このIDを非表示/違反報告)
桃佳(プロフ) - 初めまして。いつも楽しく読ませていただいてます!宜しければパスワードを教えていただきたいです!よろしくお願いします! (2023年2月7日 0時) (レス) id: bb9872c217 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おこめ | 作成日時:2023年1月14日 9時