猫と花

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目を閉じて深呼吸する。
心拍が落ち着いてきたところで、最近よく聴いている曲を脳内で再生しはじめた。
Bメロのタイミングで走り出す。
自分の身長より少し高いバー。

とべる、わたしなら、絶対に。

力強く地面を蹴り、体が宙に舞った。
脳内で流れる曲はサビに入り、より一層気持ちが高まる。
このままどこまでもとんでいけるのではないか、そんな錯覚に陥ってしまいそうだ。

背中からマットにどさりと落ちる。
ウレタンが日に焼けたにおいと、グラウンドの土のにおいが混じり合い、鼻腔を刺激した。


「すご.....！！A、新記録だよ！！」


手を叩き飛び跳ねながらこちらに走ってくる同級生。
これなら県大会は優勝間違いないね！
そう興奮ぎみにまくしたてる。
ちらり、彼女の後ろを見ると、もうひとりの同級生が嬉しそうに笑っていた。


「歌花、すげーじゃん。俺も負けてらんないわー！」

「うん。ありがとう.....陽斗くんも次の大会頑張ってね！」

「おー！」


うっすらと頬を赤く染めるふたりと、それをにやにやと見つめる女子生徒。
校庭には桜が芽吹きはじめ、そよそよと吹く風は春が近いことを知らせている。


「.....あれ？せんせーどしたの？」

「歌花、お母さんと.....事務所の社長さんが、来てる。」

「？わたしですか？なんでママ？」


校門に横付けされたBMWの黒いSUV。
車内には見たことの無い男性。
そして着飾った母親が煙草をふかしながら近付いてくる。


「帰るよA。先生、ウチの子今日で部活引退しますので。」

「えっ？！なにそれ、意味わかんな.....」

「うるさい、さっさと帰るよ！！」

「痛い、やめて、離して、！！」


あの日から、変わっていった。
わたしの人生、わたしの夢、わたしの、大切なママ。
神様、どうして。
どうしてわたしの優しいママをどこかへ連れて行ってしまったのですか？
どうか教えてください。


わたしの、せいなのですか？



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