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『……だから、困るのです』
一人のメイドがそう言った。
右手で雑巾を握り窓を拭く。
左側には……スーツで身なりを整えたこの屋敷の主が立っていた。
『どうしてそんなことを言うんだい? 僕は君が好きなのに』
『それが困るのです。よく考え直してくださいな』
『よく考えた結果さ。それとも、学院
『……相変わらず嫌なお方』
『君ぐらいだよ、僕にそんなこと言うの』
『ならどうぞお嫌いになれば』
『残念、そこも好きなとこなんだ』
話にならない、とメイドはため息をついた。
最近の午後2時のこの戯れ。いつ我が主人は飽きるのだろうかとメイドは頭を悩ませた。
『どうして君は僕に惚れないのかなぁ。最初から素っ気なかったよね。他のメイドはきゃあきゃあ叫んでいるのに』
『あまりにも魅力的で騒ぐことも忘れてしまったのです、ビル様』
『棒読みの褒め言葉どうも。そういうところも好きだよ』
『……』
メイドは隣の窓へと移動した。勿論この男もついてくる。
再び大きく吐いた彼女の息が胸元の金バッジを照らして見せた。
マーガレット家現当主、ビル・マーガレットに想いを寄せられ早半年。そろそろ辞職も考え出したこの頃だ。
若くして前当主の父を亡くし当主の座についたビルはメキメキとその手腕を発揮していた。整った顔立ち、スラリと細身で長身の彼に惹かれる女性は多く、社交の場ではいつも貴族のお嬢様に声をかけられるのが鉄板だ。
“君が好きなんだ”
メイド長兼ビルの専属メイドとして夜のコーヒーを自室へ運んだ際、彼は笑ってそう言った。
いつもの大好きな冗談か、と無視しようとしたが、笑う彼の瞳は真剣だった。
“……令嬢の方々への告白練習ですか”
“君への本番なんだけど”
“酔っていますね。今すぐお水を”
“一滴も飲んでないんだけど”
“ピッチャーごと持ってきます”
“君って人の話聞かないよね”
“君が好きだ。
僕の隣にいてくれないか”
もう一度、彼はそう言った。
今度は笑わず、真面目な表情を見せて。
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響宇(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。夢小説を読みながら涙を流したのはこの作品が初めてでした…!とても楽しく拝見させて頂きました。これからも何度も読み返し愛読させていただこうと思います、ありがとうございました!! (2021年8月28日 3時) (レス) id: 56959af681 (このIDを非表示/違反報告)
ラムダ(プロフ) - こんなにドキドキハラハラしながら読んだ作品はこの『Lady』が初めてです!とっても好きになりました!!!好きになりすぎて3回も読んでしまいました^_^これから応援しています!! (2021年3月30日 1時) (レス) id: 963810d561 (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!楽しく読んでいただけたようでとても嬉しいです。所々に伏線を隠しているのでぜひ色々見つけてみてくださいね。これからも応援よろしくお願いします! (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - 羽鶴さん» コメントありがとうございます! 私の作品の数々を読んでいただき嬉しいです。『Lady』含め作品たちへの応援ありがとうございます!ぜひまた遊びに来てくださいね (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - 今まで見た約ネバの現パロ小説の中で1番好きで、気に入りました!!(上から目線ですみません)そして、物語の伏線など、凄いと思いました!これからも応援しています!! (2021年2月7日 19時) (レス) id: 9650a3da61 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:MiUmIu | 作成日時:2020年10月10日 8時