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とある昔の淑女の話 ページ42

「私はもうすぐ死にます」





暑いある夏の日。
白いベッドに包まれ、彼女はそう呟いた。




「君にしては悪い冗談だ」
「……私が嘘を吐いたことがございますか?」



カランとグラスの氷が崩れ落ちていく。
扉の横でスミーは幼く眠る僕らの子を抱き抱え、静かに立っていた。



「このままでは死んでも死にきれませぬ。
貴方を、あの子をただ置いていくままでは」
「ならば置いていくな。主人の命令だ」
「……酷い御方。メイドを辞めろと数年前に言っておきながら」





夏に似合わない冷たい彼女の手を握り、ただただ今だけ神に願う。

どうか彼女を連れて行かないでくれ、と。







「ビル様、私とゲームをしませんか」




か細い声で彼女は言った。
そしてすやすやと眠るAを見て、微笑んだ。





「Aのためのゲームです。
彼女を幸せに出来たら貴方の勝ち。
不幸せにしたら私の勝ち。

負けた方は……そうですね。あの世で1つ何でも願いを聞くというのは」


「……君らしくない。なんとも大人気ない」

「このようなゲームはお好きでしょう?」

「君が死んでは意味が無い」

「私が死んでも貴方の中では生きております、"ビル"よ」




酷い妻だ。

こういう時だけ僕を名前で呼ぶ。名前で呼ぶ時はどうしても叶えて欲しい願いがある時だけだ。







「……Aを頼みますよ」




彼女の息が小さくなっていく。




「貴方を……愛しております。ずーっと……これからも……貴方、を……」




ことんと彼女の手が落ちていった。


落ちていく落ちていく。
もう僕の手を握ることはない。




『──』は、もう。





Aが起きてしまった。

癇癪を起こしたように泣き出すAをスミーがあやす。その目には涙が浮かんでいた。





「スミー」
「はい」
「イザベラに依頼を」
「……彼女は男児を出産したばかりですが」
「期限は6年。その間に任務完了すればいい。
"彼女"についての調査をさせるんだ。

そしてスミー、君は────────」






.





"息子を見つけておいで"
"優秀な、親のいない君の息子を"








「イエス、マイロード。
……イエス、マイレディー」








「ゲームの役者だ」






動かない『──』の手。
そこに光るダイヤモンドの結婚指輪。






そこにそっと口付けを。
ゲーム開始の合図を。









「さぁ……始めようLady」


Aの声が遠のいていく。

その大きなサファイアの瞳が床に伏せる母親の指輪を捉えていた。

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響宇(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。夢小説を読みながら涙を流したのはこの作品が初めてでした…!とても楽しく拝見させて頂きました。これからも何度も読み返し愛読させていただこうと思います、ありがとうございました!! (2021年8月28日 3時) (レス) id: 56959af681 (このIDを非表示/違反報告)
ラムダ(プロフ) - こんなにドキドキハラハラしながら読んだ作品はこの『Lady』が初めてです!とっても好きになりました!!!好きになりすぎて3回も読んでしまいました^_^これから応援しています!! (2021年3月30日 1時) (レス) id: 963810d561 (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!楽しく読んでいただけたようでとても嬉しいです。所々に伏線を隠しているのでぜひ色々見つけてみてくださいね。これからも応援よろしくお願いします! (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - 羽鶴さん» コメントありがとうございます! 私の作品の数々を読んでいただき嬉しいです。『Lady』含め作品たちへの応援ありがとうございます!ぜひまた遊びに来てくださいね (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - 今まで見た約ネバの現パロ小説の中で1番好きで、気に入りました!!(上から目線ですみません)そして、物語の伏線など、凄いと思いました!これからも応援しています!! (2021年2月7日 19時) (レス) id: 9650a3da61 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:MiUmIu | 作成日時:2020年10月10日 8時

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