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「これ以上お嬢様の傍に立ち続ければ、自分はこの想いに潰されてしまう」


一人の女性への『愛』に潰される男などなんと女々しく愚かだろうか。それがまさか自分だとは。


「……自分のために辞めるというのかね?」
「私の最後のわがままでございます。あのわがままお嬢様の世話を務めた、報酬とでも考えてください」
「報酬を考えるのは大元の主人である僕だと思うけどね」
「……それは失礼致しました」


ノーマンは軽く頭を下げた。
コツ、コツと上品そうな革靴の音が近づき、ノーマンの前で止まった。
ノーマンより少し高いビルの上背。初老にも関わらず背筋はピンと伸びている。




「醜い紋章だ」

ビルの低い声がノーマンを襲う。
首筋に付けられた数列のことを言っているのだろうか。ノーマンは頭を上げることができなくなっていた。



「だが、同じぐらい愚かで醜い女がいる」
「……誰のこと、でしょうか」
「君がよく知る僕の娘のことだ」


え、と思わずノーマンの口から間抜けな声が漏れた。
てっきりレグラヴァリマのことかと思っていた。

それが今、この方はなんと仰った?


「Aのことに決まっているだろう。馬鹿な娘だ。だからレグラヴァリマ嬢の策にまんまと引っかかるんだよ」
「だん、な、様……?」
「このマーガレット家の汚点になりうるよ、Aは。彼女はこの家の権威を失墜しかけた。
なんて馬鹿な娘だろうね」
「旦那様!!」


思わず主人に叫んだ執事長を差し置いてビルはさらに続けた。



「……逃げ続けるからこうなるんだ。
彼女と、同じで」


低い声とは一点、悲しく泣きたいような声。
つい先程まで実の娘を卑下していたとは思えないほど、ビルの青い瞳に影がかかっていた。


「従者に愛されたから……なんだ。自分も従者を愛してしまったから、なんだ?
世間体?禁忌?許されない?違う。
『彼女たち』はただ逃げたかっただけなんだよ」


主人が分からない。
一体、今自分は誰の、なんの話を聞いているのかがわからなかった。

どこか、何か既視感があるような……。


戸惑うノーマンの表情を見て、ビルはにっこりと微笑んだ。
今度ははっきりと見えた。優しく、Aに似た美しい微笑みだ。





「君に、最後の講義をしてあげよう。
スミーからも教えられていない、とっておきの僕の話を」
「旦那様の、お話、ですか……?」
「そうだよ」


座りたまえ、とビルはソファーにノーマンを促した。




「僕の妻の話。
Aの亡き母親の話さ」

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響宇(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。夢小説を読みながら涙を流したのはこの作品が初めてでした…!とても楽しく拝見させて頂きました。これからも何度も読み返し愛読させていただこうと思います、ありがとうございました!! (2021年8月28日 3時) (レス) id: 56959af681 (このIDを非表示/違反報告)
ラムダ(プロフ) - こんなにドキドキハラハラしながら読んだ作品はこの『Lady』が初めてです!とっても好きになりました!!!好きになりすぎて3回も読んでしまいました^_^これから応援しています!! (2021年3月30日 1時) (レス) id: 963810d561 (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!楽しく読んでいただけたようでとても嬉しいです。所々に伏線を隠しているのでぜひ色々見つけてみてくださいね。これからも応援よろしくお願いします! (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - 羽鶴さん» コメントありがとうございます! 私の作品の数々を読んでいただき嬉しいです。『Lady』含め作品たちへの応援ありがとうございます!ぜひまた遊びに来てくださいね (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - 今まで見た約ネバの現パロ小説の中で1番好きで、気に入りました!!(上から目線ですみません)そして、物語の伏線など、凄いと思いました!これからも応援しています!! (2021年2月7日 19時) (レス) id: 9650a3da61 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:MiUmIu | 作成日時:2020年10月10日 8時

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