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『ノックは3回』
『2回のみは御手洗。主人の部屋では失礼にあたる』






(スミー)の言葉が思い出される。
その教え通りノーマンはいつものように3回、扉を叩いた。


「失礼します」


部屋に入れば主人、ビルがAと似た顔で大きなガラス窓のその先を眺めていた。


「やぁ、おかえりノーマン」
「……遅くなりまして大変申し訳ございません」
「いや。よくAを奪い返した。礼を言うよ」
「ありがとうございます」


ビルはこちらを向かない。
本当ならば正面切って渡したかったのだが……ノーマンは仕方なく背中に隠した手の中の退職願を差し出した。


「旦那様、」

ノーマンがそう言いかけたところでようやくビルは振り向いた。
Aと同じ青い瞳が、じっとノーマンの手元を見つめている。サファイアのように輝く瞳が。


「……大仕事をやり遂げた後に渡すものでは無いと思うけどね」
「存じ上げております。
しかし、今……この時でなくてはいけないのです」
「理由を聞こうじゃないか」


ノーマンの心臓が激しく鳴りだした。
伝えなければならない、この屋敷の主に。それが怖くてたまらない。

ビルは温厚な人だ、とわかっている。普段『温厚』だからより怖いのだ。怒りにまみれたその顔が。その毅然とした態度が。
笑顔からでさえも冷や汗が吹き出てしまう。








「─────彼女を愛してしまいました」


震える指先を再び背中に隠しながらぽつりと言葉を口にした。
ビルは何も答えない。答えずに、窓の先を見つめ続けるだけ。


数秒後、ようやく彼は振り向いた。
銀色の髪が月の光に照らされ、キラキラと輝いている。逆光でよく見えないビルの顔はどこか微笑んでいるかのように見えた。

ノーマンは続けた。


「従者にとって主人を愛することは禁忌でございます。それは勿論私も例外ではありません。父……前執事長からしつこいほど言われていたこともわかっております」
「その上で僕の娘に恋したと?」

ノーマンの言葉に被せるようにビルがようやく口を開いた。





「……はい……っ」
「それで、責任を取って辞める、と?」
「……いかにも」


これ以上Aの傍にはいられない。
レグラヴァリマのせいだけではない。執事として、一人の男として、もうAの傍に『いてはいけない』のだ。

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響宇(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。夢小説を読みながら涙を流したのはこの作品が初めてでした…!とても楽しく拝見させて頂きました。これからも何度も読み返し愛読させていただこうと思います、ありがとうございました!! (2021年8月28日 3時) (レス) id: 56959af681 (このIDを非表示/違反報告)
ラムダ(プロフ) - こんなにドキドキハラハラしながら読んだ作品はこの『Lady』が初めてです!とっても好きになりました!!!好きになりすぎて3回も読んでしまいました^_^これから応援しています!! (2021年3月30日 1時) (レス) id: 963810d561 (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!楽しく読んでいただけたようでとても嬉しいです。所々に伏線を隠しているのでぜひ色々見つけてみてくださいね。これからも応援よろしくお願いします! (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - 羽鶴さん» コメントありがとうございます! 私の作品の数々を読んでいただき嬉しいです。『Lady』含め作品たちへの応援ありがとうございます!ぜひまた遊びに来てくださいね (2021年2月9日 8時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - 今まで見た約ネバの現パロ小説の中で1番好きで、気に入りました!!(上から目線ですみません)そして、物語の伏線など、凄いと思いました!これからも応援しています!! (2021年2月7日 19時) (レス) id: 9650a3da61 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:MiUmIu | 作成日時:2020年10月10日 8時

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