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まさか、と思い自分の部屋の扉に手をかける。今朝はバタバタして鍵をかけ忘れていた。つまりドアノブをひねれば簡単に人を誘い入れてしまう。
テーブルに置かれたバラの花束。本数は99。
"永遠の愛"の誓を込めた、Aだけの花束。そしてコツコツ貯めた給料で買った指輪の箱がひっそりとその花束に身を寄せていた。
Aが寝ている間に静かに測った薬指のサイズ。Aが持っているプライベートリングの傾向から見たAの好み。それに合わせて買ったのはシルバー1色のシンプルな指輪だった。小さなダイヤが1粒、裏側に埋められている。あえて裏側にしたのは心配症のAが『こんな高そうなダイヤが表についてたらポロッと落としちゃうよ!つけれない!』と嘆く(正しくは嘆き叫ぶ)のを防ぐためだ。
そんなAが家に居ない。
よく見ればある1輪のバラの花びらが不自然に欠けている。さっきの肉じゃがで温められた花びらに違いない。
しまった。
やはり鍵をかけずに出ていったのは迂闊だった。部下の1人が重大なミスをしたと夜中に不在着信がかかってきていて、朝は確認せずに玄関へと走ってしまった。
ふとパソコンに目が止まった。スリープ状態のまま閉じられた自分のノートパソコン。スリープ状態なのは起動するまでの時間を少しでも減らすためだ。
その上に1枚のメモ用紙が置かれていた。
まさか、と嫌な予感が全身を駆け巡る。
メモにそっと手を伸ばす。指をかける。動かない。めくれない。この裏に何が書いてあるのかが、見たくて、見たくない。
Aにはかなり我慢をさせているだろう。
小さい頃から僕らは一緒だった。ピーター兄さんに歯向かって、ジェイムズ兄さんに泣きついてまで私立学校への道を蹴ったのだ。そしてそこでエマ、レイ、そしてAに会った。
楽しかった。幸せだった。Aへの恋の感情へ気付くのも遅くなかった。
このままの関係でいられるのならそれでいい、と自分の想いを隠すことを決めていた。でも我慢できなかった。ある冬の夜、意を決してAに本心を告げたこと、今でも鮮明に覚えている。Aはポロポロと泣き出したこと、ずっと隠していたこと、言えなかったこと。
Aは我慢してしまうから。
それを今、なぜ強く実感しているのだろう。
人が何かを実感する時、大抵は後悔から来るのだと言う。
『あぁもっとこうすれば』『これで本当に良かったのか』と。
僕は今、何を後悔しているのだろう。
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MiUmIu(プロフ) - ちょこばななさん» コメントありがとうございます!別の作品でのコメントも拝見しましたがサマーウォーズの私の作品も好きだいらっしゃるとか!?本当にありがとうございます!これからもよろしくお願いします (2020年10月15日 9時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
ちょこばなな(プロフ) - MiUmIuさん» おもしろかったです!最高です…!さすがとしか言いようがないです笑 (2020年10月14日 21時) (レス) id: 25d5b056bf (このIDを非表示/違反報告)
ふわふわ(プロフ) - これからも頑張ってください (2020年6月13日 9時) (レス) id: 25ce3e61b4 (このIDを非表示/違反報告)
MiUmIu(プロフ) - ふわふわさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです! (2020年6月12日 18時) (レス) id: c6740f863a (このIDを非表示/違反報告)
ふわふわ(プロフ) - すごい面白かったです (2020年6月12日 15時) (レス) id: 25ce3e61b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:MiUmIu | 作成日時:2020年6月5日 13時