【銀盤】恋のまま君に恋う【短編集】

熱病にも似たそれは、/shm ページ7

私は、同期である昌磨が嫌いだ。
才能は認めている、認めざるをえない。四回転を数種類も跳べるなんて私には夢のまた夢なのだから、これで才能を認めないといったら私はとんだひねくれ者だ。
今シーズンはたくさんの大会に出て、世界選手権では右足を負傷したにも関わらず全て二位以上の戦績を上げている昌磨は言わずもがなこれからのフィギュアスケート界を引っ張っていく選手になるだろう。
正直に言えば私も昌磨の演技には感動したし、やっぱり憧れだ。
それなのに、人前に出ているときに居眠りなんて…。
きっと、私にはあんな演技できないから嫉妬でしかないのだろうけど、やはり日本を代表する選手があんな態度ではいけないと思う。
これが、私が昌磨を嫌っている理由。

「A〜」
「くっつかないで、離れて」

なのに、当の本人は私の気も知らずにいつもくっついてくる。
私自身、幼い頃から同じリンクで練習をしてきたので慣れたものだけど、こんなところメディアに撮られたらどんな罵倒が飛んでくることやら想像もつかない。
こういう、自分がどれほど有名で人気なのか自覚してないところも嫌いだ。

「なんでだよー、ちっちゃいころはあんなにいつも一緒だったのに」
「ちっちゃいころは、でしょ。今は私も昌磨も大人なの。自覚してよ」

自分でも刺々しい言葉だなぁとは思うが、今の昌磨にはこれくらい言ってあげないと気が済まない。
まぁ、きっと私の言葉なんて五秒で忘れるんだろうけど。

「自覚してって、そんなこととっくに自覚してるけど」
「…は？」
「だから、僕もAも大人ってこと。分かってるに決まってるじゃん。だからこうやって、他の人にとられないように今のうちに僕のものだって見せつけてるの」

…意味が、わからない。
誰が『僕のもの』だ。私はものでもないし昌磨のものにもなった覚えはない。

「意味、分かる？」
「…分かんないに決まってるでしょ」
「ふふ、分からないならなんで顔赤いのかなぁ」

昌磨の男らしい手が私の頬に触れる。すると、その箇所が急激に熱を帯びていくことが分かった。
今の昌磨はテレビで言われている『天然』とか『マイペース』とか、そういう言葉は似合わないくらい、大人っぽい。
こうやって私の前でだけ態度変えて、私の余裕をなくしてくるところも、嫌い。

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