【銀盤】恋のまま君に恋う【短編集】

花瓶の底の水を吸う/yzr ページ20

※オメガバース設定注意

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新しいリンクメイトだと説明された子を見て俺は息を飲んだ。
甘ったるく、誘惑してくるような匂い。今までこんなもの感じたことがなかった。だが、この匂いはなんなのかはもう知っている。Ω特有の甘い匂いだ。

「初めまして。今日からこのリンクでお世話になります、鈴森Aです。まだあまり上手くないのですが、よろしくお願いします」

彼女は丁寧にお辞儀をした。そして、巻き起こる拍手に照れくさそうにはにかみ一人一人と握手をしていった。
名前は聞いたことがある。確か、世界ジュニア選手権で金を取った子。次世代のフィギュアスケート界を引っ張っていく存在として今世間に注目されている選手だ。
まさか、そんな子がΩだとは思わなかった。

幸運なことにここには俺の知っている限り、俺しかαはいない。俺以外はみんなβ。つまり、一般的な人間。きっとみんなはこの子がΩだということに気づいていないし、思ってもいないだろう。

「初めまして、羽生さん。これから同じリンク名と同士、よろしくお願いしま…っ！」

彼女が俺の前に来て挨拶をする。そして、握手をしようと手を差し出した時、俺の顔を見てハッと息を飲んだ。元より大きい目が見開かれることによってさらに大きく見える。
どうやら俺がαだと分かったようだ。
彼女は俺と握手を交わすと、すぐに次の人に移っていった。他の人とは握手をした後でも一言二言話をしているのに俺の時は何もなし。これはこれからも関わってこないなぁと少し悲しくなった。

しばらくしてから彼女は動きやすい服装に着替えてきた。そして、ストレッチをしてからリンクに入ってくる。先程は気づかなかった…いや、きっと着替えている時につけたのだろうチョーカーも首に巻きついている。御丁寧に鍵までかけてある。
なかなか警戒されてるなぁ。まぁ、それもそうか。

あまり彼女には関わらないようにしよう。それが、俺と彼女にとって一番良い選択だ。

なんて、思っていた時期もありました。

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