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ロスト 2/yzr ページ19

「…覚えて、ない?」
「覚えてないって…私、あなたと面識ないので、人違いじゃ…?」

最初は悪い冗談かと思った。でも、そうではないと彼女の緊迫した顔が物語る。
後遺症が残るとは聞いていたけど、まさか記憶障害だなんて思ってなかった。それも、俺だけを忘れているもの。
彼女の記憶の中から、ぽっかりと俺との記憶だけが消えた。初めて出会った時も、告白した時も、初デートの時も、全て消えている。

不審者を見るかのような彼女の瞳。視界がじわりと滲んだが、ここで泣いたら彼女にとっては更に不審だ。
唇を噛み締め、何も言わず病室から出て行く。
出た途端、張り詰めていた糸がプツリと切れたかのように、俺の身体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。

「お、おぼえて、ないって…んなこと、あるのかよ…」

そこからの記憶はあまりなく、ずっと病室の外に座り込んでいたら通りかかる人達に心配されてしまったので、とりあえず家に帰った。
何も考えたくなくて、すぐにベッドに飛び込み、頭の中空っぽの中目を閉じていた。
すると、彼女の母親から電話がかかってきて、飛びつくように通話ボタンを押した。

「結弦くん…?」
「はい、そうです」
「あのね…さっきお医者さんから聞いたんだけど…あの子の記憶が治る見込みはない、って…」
「…え?」

『治る見込みはない』すなわち、彼女の記憶から、俺は完全に消しさられた。もう二度とあの笑顔が見られない。俺の名前を嬉しそうに呼ぶ声が聞けない。いつも恥ずかしそうに言ってくれる、あの言葉を言ってもらえない。
手から滑り落ちた携帯が床にぶつかり、ごとっという鈍い音を立てる。

「あ、ぁ、あああああっ!」

今まで我慢していた分の涙が一気に零れ落ちる。
スピーカーから聞こえる彼女の母親の心配した声が妙に俺をイラつかせて、乱暴に通話を切った。

なんでだよ。俺が、何をしたっていうんだよ。また、彼女と笑い合える日々を夢見ただけだろ。
そんなことさえ神様は許してくれないんだな。

花瓶の底の水を吸う/yzr→←ロスト/yzr



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kokona(プロフ) - オメガバースの話、続きが凄く気になります…! (2019年4月1日 8時) (レス) id: 498a098029 (このIDを非表示/違反報告)
みく(プロフ) - ?まなかさん» オメガバース凄く好きなんです...!いつもコメントありがとうございます!すっごくモチベーションに繋がるし、嬉しいです! (2018年4月6日 22時) (レス) id: e662d7ec1b (このIDを非表示/違反報告)
?まなか(プロフ) - お、オメガバースイイですねぇ。うへへ。素晴らしいです。作者様好き!! (2018年4月6日 17時) (レス) id: dbf487caee (このIDを非表示/違反報告)
天音みく(プロフ) - ?まなかさん» はい!エイプリルフールのおふざけ話でした!驚いてもらえて嬉しいです笑 (2018年4月1日 14時) (レス) id: e662d7ec1b (このIDを非表示/違反報告)
天音みく(プロフ) - シーカさん» 読んでいただきありがとうございます!おふざけで書いた文章なのでそう言ってもらえると嬉しいです笑これからもどんどん更新するのでよろしくお願いします〜! (2018年4月1日 13時) (レス) id: e662d7ec1b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みく | 作成日時:2018年3月26日 10時

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