【連作短編集】Candle 【歌い手】

バニラズスメル【skt】 ページ8

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『今までの人生で後悔していることはありますか？』


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｢なーなーさかた｣
｢あっあのタオル買って帰ろうかな｣
｢話聞けよ｣


雑貨屋さん。ふらりと歩きだそうとしていた僕はうらさんに肩を力いっぱい掴まれていた。

｢……あっ｣
｢あっ、じゃねーよ｣
｢ご、ごめんうらたさん｣

完全に今日の目的を忘れていた。今日はうらさんの彼女さんへのプレゼント選びのお手伝いに来ているんだった。彼は呆れたような視線を僕に向けた。

｢ま、いーけど。それでなんだけどプレゼント、これにしようかなって｣


彼がこちらに向けたのは香水の瓶。センスのいい彼らしいセレクトだ。

｢ふーん、何の匂い？｣
｢えっと……バニラだって｣

バニラ。よりによってバニラ。
目の前でにこにことしている彼と『あの子』がぼんやりも重なったような錯覚に陥る。


｢あっ、いーにおい｣
｢そっ、か……｣

『try!』の文字が書かれたシールの着いた小さなボトルから数滴の雫を手のひらに受けた彼が頬を緩める。ほんの少し、少しだけその香りがこちらに届いて気が狂いそうだ。



｢お前も嗅いでみろよ、ほらっ｣
｢……やっ、｣

差し出された手を条件反射のように振り払えば目の前の彼が驚いたような表情を浮かべている。やってしまった。

｢ごめん｣
｢あっ、じゃなくて、｣
｢……もしかしてバニラ、苦手だった？｣
｢そうやねん！なんか甘ったるくて｣

食い気味に言ってみればうらたさんも納得したような表情を浮かべた。良かった、気づかれなくて済む。



｢やからプレゼントそれになったら僕うらさんの彼女に会えんな｣
｢……んん？｣
｢まさか会わせるつもりもなかったと？｣

いつも通りの軽めの冗談。大丈夫、上手くやれてる。上手く笑えてる。
だから、


きみは、どこかとおくでわらっていてよ。

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