【連作短編集】Candle 【歌い手】

珈琲は甘めで 【urt×snr】 ページ1

♧


誰もいない部屋でひとり、唇を噛んだ。いつでも手を伸ばせばそこにあった温もりはなくて、かなしくて、せつなくて堪らないのに。


(ぜんぶ、ぜんぶおれのせいなんだ)



♢

軽くコーヒーをかき混ぜていたスプーンから手を離すとからん、という音が静かな店内に小さく響いた。そのままカップを持ち上げて口をつける。


｢センラ、君？｣

からん、というベルの音に誘われるように振り向くとそこには極力会いたくない人の姿が。


｢……A｣
｢ごめんね、ちょっと隣いい？｣
｢どうぞ、｣

隣に腰掛けた彼女は慣れたように紅茶をオーダーして、小さくため息をついた。


｢……うらたんと、なんかあったん｣
｢ちょっと、ね｣
｢ふうん｣

そのまま運ばれてきたカップに口をつけて悲しそうな顔をするAを見ているのが嫌で、ついつい口調にも悪意が混じってしまうらしい。


｢いや、違うの！渉くんは悪くなくて、｣


(……なんでそこまでして庇おうとするん)


君を傷付ける、あいつじゃないか。


｢……俺にしとけばええのに｣


小さく呟いたはずの言葉は彼女に届いてしまったらしい。

｢……そろそろ失礼するね｣


きみは、やさしすぎる。

やさしすぎるから





(こっちまで悲しくなってくる)

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