家族になって二十三日目 ページ45
長かった八月がようやく終わりを迎えてすぐ、私はあまり慣れないかっちりとした服を着て鏡の前に立っていた。足の横にはやけに重たい鞄が並んでいる。
「うし、A。よく似合ってんぞ」
『そうかな。やっぱり少し変な感じ』
これまでこの姿を褒めてくれる人なんていなかったもの。
嬉しさ半分。けれども不思議な心地がした。
鏡に映っているのは制服姿の私。後ろにはいつもより機嫌が良さそうな彼。転校してから最初の登校日、こんなに胸が高鳴るのは初めてのことだった。中也さんもやたらとネクタイを締め直し、髪の毛を気にしている。
「なあ、これ大丈夫か？ 俺ァあんまりきちっとしすぎたものは似合わねえんだが。手前の担任に笑われたりしねえかな」
『初対面の人の格好を見て笑う人ってなかなか居ないよ』
「だがもし舐められたら...」
『そんなことないって。なんか今日変だよ』
外聞を気にするような発言や、落ち着きのない仕草は常の彼であれば不自然と言い表すより他になかった。いつでもゆったりと余裕がある大人というイメージが強いからか、少しだけ拍子抜けしたといってもいい。
私が言うと、彼は尻すぼみな声で答えた。
「だってよ、俺は親になるなんて初めての経験なんだよ。しかもいきなりこんなでけぇ娘持つなんて思いもしてなかった。いや、この場合兄妹か？ 学校には遠い親戚だと通したが」
考え込む中也さんにふふっと笑うと、驚いた顔と目が合う。お前がそんな風に笑ったところ初めて見た、と。そんなに笑っていないつもりはなかったんだけどなと口を尖らせる。
『私だって、初めてだよ。中也さんと出会ってからたくさん初めてがあったんだから。辛いときに助けてもらったのも、私のことを一番に考えてもらったのも、怒るんじゃなく叱ってもらったのも、抱きしめてもらったのも。他にもいっぱい』
嬉しくて、悲しくて、楽しくて、悔しくて。
感情が身体中を巡り巡る感覚なんて、私には一生縁のないものだとさえ思ってた。笑っていいよ、泣いていいよ、怒っていいよ。そう教えてくれたのは中也さんが初めてだったんだよ。
「んじゃ、お互い初心者同士ってことだな」
子どもとして人並みの道を歩んでこなかった人間と、彼女のための大人になる資格がないと一度道を堰き止めた人間。
『だから今日から二人で、初心者卒業目指そうよ』
彼らが“家族”の形に辿り着くのは、これからまだまだ先のこと。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (
レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください！と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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