家族になって六日目 ページ28
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じりじりと照り付ける陽が痛く感じる季節。カレンダーを見てみれば、もう休学どころか長期休暇の頃だ。
だから彼の言うことには納得していた。夏休み中に手続きを済ませて、二学期から横浜の学校へ転入する。そのためには今のうちに遅れている分の学習を進めなければならない。
『でもさ』
「やあ、お嬢さん。一ヶ月ぶりだねぇ」
なんでよりによって、この男に教わらなきゃならないの。
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『...』
「あ、えっと、Aちゃんだったよね? そんな嫌そうな顔しないで! あーほら、この社会の教科書なんてすごく面白そうだよ。こっちの国語の教科書のお話も...」
白い髪の男の人が必死に話しかける間も、私はある一点に集中して視線を送っていた。視線を送るというよりも睨みつけるという方が正しいか。当の本人はにこやかな笑みを崩さない。
「しょうがないだろう? これは中也が決めたことなのだから、受け入れることだよ」
この男、太宰治の言うとおり。私は他でもない中也さんの決定によって此処“武装探偵社”を訪れているのだ。不本意ながらも彼からの言いつけであるため、背くことが出来ないでいる。
「そもそも裏社会に君臨するポートマフィアの幹部である中原中也が、生半可な覚悟で子どもを育てられるわけがないのだよ。その存在は彼の弱点になるのだから」
「太宰さん!」
「その子どもを職場に連れて行って汚い世界を見せるわけにもいかない、かといって一般の教育施設に預けるにも危険が伴う。探偵社を選ぶのはどの面から見ても至極合理的だ。依頼内容には護衛も含まれているからね、報酬を鑑みても我々ならば断らないと分かっていての判断だろう」
君はそれをわかっていなかったのかな?
まるで馬鹿にしたような口振りに、黙って教科書と問題集を開く。
合理的という言葉の意味はわからなかったけど、それが一番良い方法だということは分かっていた。それでも気に食わないのは、太宰だ。
まざまざと見せつけられる彼らの間の強い繋がり、見える繋がり、名前のある繋がり。中也さんと家族になった今でも、不安と焦りを覚える。男は私の心の暗い部分を察して態と痛く刺さる言葉を選ぶのだとそんな気がしていた。
『そのくらい、わかってる』
「へえ。随分と聞き分けがいいんだね」
嫌味な声を聞き流して、窓際で揺れる風鈴を目に映す。ちりんちらん。ちりんちらん。長い夏の明るさに宥められて、眼前のものへと向き合った。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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