家族になって四日目 ページ26
**
「ただいまー! わりぃ、A。遅くなった...」
扉の隙間から明かりが漏れるリビングが、やけに静かだと思った。現在時刻午後八時半。Aと家族になってからというもの、出来る限り早い時間に仕事を終わらせて帰宅していたが、随分と遅くなってしまった。
お腹空かして待っているだろう彼女のために車を飛ばして帰ってきたのだ。芥川との買い物も終えていつものように出迎えがあると思っていたのに、何故だか今日は何かが違う。
「A...?」
訝しみながらゆっくりと扉を開けた先に、台所の床に蹲る子どもの姿。その前には割れて散乱した皿の破片があって、俺の気配に気付いたのか、それを見つめながら泣きそうな声を上げた。
『ごめん、なさい...っ』
*
無言で破片を拾い集める間、彼女は傍に立ち尽くして顔を伏せながらしきりに謝罪を繰り返していた。
台所には味噌汁の入った鍋や何かを炒めたのであろうフライパンがあって、机には椀や皿が並べられている。それを見て分からないわけがない。きっとAは、帰りの遅い俺のために夕食を作ろうとしていたのだ。
台所に置かれたこの少女には似合わない少しだけ分厚い料理の本。慣れない料理を必死に頑張ろうとしてくれて、偶然皿を落としてしまったのだろう。その気持ちだけで俺は十分嬉しいのに。叱るわけがないのに。
皿を片付け終えて少女の前にしゃがみ込み、視線を合わせた。やはり彼女は何度も何度も謝り続けていて、それが心底不快で、そのことに対して憤りを感じている。
一体誰が、こんな年端もいかないガキに醜い謝罪の仕方を教えたのか。
はぁとため息を吐くとびくりと肩を揺らしたので、
しまったと思ってあやす様に髪に指を通した。
「怒りゃしねえよ。どうせ手前のことだ、何かしなきゃあと力んで空回りでもしたんだろ。だから、いいよ。そんなことより怪我はねェか?」
恐る恐る頷く彼女に、ならよかったと微笑む。
きっと家族とは無闇に怒鳴り散らすようなものじゃない。状況や結果で判断するのではなく、互いを想いあって、その過程や気持ちにも目を向ける。それから褒めて、叱って、共に学ぶ。それが、家族だ。
そう考える自身も家族と過ごした日々などとうに昔のことで、記憶にもあまりないから、この判断が正しいのかもわからず手が震えてしまうが、お互い様ということにして。
「せっかく手前が作ってくれたんだ。冷めないうちに、早く食べるぞ」
俺たちはこうして、家族になろう。
316人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ