出会って十六日目 ページ17
「その前に一つ聞きたいんスけど」
「なんだ」
「中也さんこそ、何時から帰宅してないんスか」
「...」
男の言うとおり。Aが本音を殺したその日から、俺は家に一度も帰ってはいなかった。幹部専用の執務室にのみ浴室と寝台が備え付けられているため、それらを使い、食事は簡易的なものばかりで済ませていた。
出来るだけ余裕のある時間を作りたくなかったのだ。ゆったりとした時間に身を任せれば、考えが簡単に変わってしまいそうで。殆どの時間を費やしてただ仕事に没頭していた。
「Aと喧嘩したんですよね」
「違ぇよ。近づき過ぎた距離を、元の形に修正しただけだ」
「近づくのの何がいけないんスか」
その言葉に思わず手が止まる。咄嗟に面を上げると、真剣な表情で背を伸ばして立つ立原。目を伏せておいと声を出す。少々の怒気を孕んでいることに気が付いたのか、その肩がびくりと揺れた。
「手前、それ本気で言ってンのか」
「え...」
「近づくことの何がいけねえかわからないだと? 巫山戯んのも大概にしろよ、俺たちと彼奴じゃ生きてく世界が違うんだ。互いに妙な情なんて持てば困るのはAだ」
「生きてく世界が違ったって、聞き分けの良いアイツならちゃんといい子に育ちます! 裏社会の人間が一般人と関わっちゃいけないなんて、子どもを可愛がっちゃいけないなんて、誰かが決めたんスか?!」
「だったら手前に、ガキ一人の将来に責任が持てるのか!」
つい怒鳴ってしまった。感情的になる気はなかったが、怒鳴らずにはいられなかった。立原は馬鹿だが、俺の言い分を理解できないほどじゃないし、何より最初から俺が何と言うのか予想がついていたはずだ。
それでも訴えかけるように声を荒らげるのは、Aを思ってのことだった。気持ちはわかる。けれどもこれは、理屈を抜きに出来るほど単純な話じゃない。
「誰だ」
扉の方から物音が聞こえ、一瞬慌てたらしい気配がする。
しばらく沈黙を保っていたが、当人は観念したように扉の影からひょこりと顔を出す。その人物に俺たち二人は同時に目を剥いた。
『また勝手に出歩いてごめんなさい』
Aだった。
今一番この場に居てはならない人間が、
困ったように、ぎこちなく、笑っていた。
「立原さんが忘れ物したから届けなきゃと思って」
そう言って外套らしきものを押し付けるとそそくさと部屋を出ていく。そして去り際、小さな声で言った。
『一週間後には必ず出て行くから、喧嘩しないで』
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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