出会って十五日目 ページ16
『ごめん。変なこと言った』
先程曝け出した本音を全てなかったことにして、少女は歩き出す。その背に組まれた手は、内側に爪の跡が着くんじゃないかというくらいに固く握られていて、俺はそれを見て見ぬ振りをした。
胸が痛い。
人を拒む彼女に、人と話すよう説いた。
食事が苦手な彼女に、腹を満たすよう説いた。
子供らしくない彼女に、気を使うなと説いた。
自尊心が低い彼女に、人の在り方を解いた。
この短期間に沢山のことを教えたつもりだ。教えておいて、都合が悪いものからは見て見ぬ振りをする。教えを受け入れて実践する子どもを、肯定せず、褒めることもしない。認めない。
大人として、やっていけないことだという自覚はある。
それでもどうしろというのだ。
俺の側に置いておくことは出来ない。
俺と此奴じゃ、生きている世界が違う。
いくら少女との非日常に絆されても、それだけは譲れない。
「次、何処に行きたい」
そして俺もまた、全てをなかったことにして隣を歩くのだ。
*
その後は、本当にいつも通りだった。
怖いくらいにAに変化はなく、本当にあの会話が夢か何かであったかのように。強がりなどではない。反対だ。彼女は、諦めたのだ。拒絶された本音に蓋をしたのではなくて、捨てた。丸ごと全て。
貼り付けた表情が底抜けに不気味。
少女は以前に逆戻りした。
時間をかけてでも出された食事は完食するようになった。包帯を変えてもらう時にはお礼を言うようになった。勝手に医務室の外を出歩かなくなった。他の構成員たちは、口を揃えてこう言う。
いい子になりましたね。
ああ、お前らにはそう見えるかもな。
でも違う。確実に彼女は出会った頃のように、否下手に仮面を着けた分どんどんと悪化の一途を辿っていた。以前のように心が死んでしまった。
あれから五日が経った日、耐えきれないと言うように立原が執務室に来た。仕事はどうしたと尋ねると、今日は休暇ですと返されたが、どう見ても彼は未だ仕事着のままであった。
「立原、手前帰宅は」
「してません」
「まさかあのガキとずっと一緒に居たのか」
「そうッスけど、きっと中也さんに居てほしいと思いますよ」
「...用件を手短に言え」
手元には納期がずっと先で、手を付けるには早い書類ばかりだった。それでも俺はお構いなく作業を進める。少しでも余計な考えを起こす時間を削るために。
目の前の男は、辛そうに顔を歪めていた。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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