出会って十四日目 ページ15
店を出て、何も言わず人と人との間を縫うようにずんずんと突き進んでいく少女を追いかけ、その細腕を掴まえてやっと制止する。
「おい! いきなりどうした」
『...』
腕を振りほどこうとともせず、ただ黙って俯く。その前に回り込んで顔を覗き込むが表情はいつも以上に読みにくいものだった。徐に口が開かれる。
『あの人、ずるい』
「は?」
その言葉はあまりにも突拍子のないもので、加えて彼女にそう思わせた理由すらも全く検討がつかず、思わず間抜けな声が出てしまう。
太宰治が人に羨まれることがあるとすれば、容姿と類希なる頭脳に他ならない。寧ろその点以外に羨まれることがあるものか。けれどもAが“ずるい”と感じる部分だとはどうしても考えられない。
「彼奴の何処が狡いんだ」
『彼は貴方に大嫌いだと明言されているから』
「手前は俺に嫌われたいのか?」
『違う。そうじゃなくて...』
そうじゃないんだけど、と言ってまた閉口してしまう。上手く言い表せないのが歯痒いのか目を泳がせては必死に考え込んでいるようだった。俺は只管に言葉を待つことしか出来ない。
それから少し経ってようやく、再度口が開かれた。
『私にとって貴方は神様だから。暗くても、大嫌いという気持ちを向けられているあの人が、羨ましい。きっと私の方が、貴方に対して明るくて綺麗な気持ちを持っているのに。私からの気持ちと貴方からの気持ちとその繋がりははっきりとしてない』
それが、嫌だ。
そう言われてはっとした。
その通りだ。いくら負の感情だとしても互いに互いがどう思っているかを把握し、理解して、割り切った関係でいるのが俺と太宰。対してAは違う。
友人でも恋人でも、家族でもない。知り合いといえば軽すぎるし、その間に生じるものは友愛とも恋愛とも家族愛とも異なる。彼女はその曖昧さを心底気に入らないと言っているのだ。
名前の無いこの関係性が嫌だと、彼女は叫んでいるのだ。
だが。
「俺とお前にそんな大層な関係は必要ねェよ。手前に愛を教えてくれるのは、俺でも神様でもない他の誰かだ。今目に見えているものだけに執着するな。縋りたいだけの気持ちは、純粋であっても綺麗じゃない」
これは少女にとって酷な言葉だ。
言い訳をするなら、彼女の将来のためだとでも言おう。俺とこの娘はほんの限られた時間を共有するに過ぎないのだから。彼女はそこに生まれた感情を切り捨てて歩まねばならない。
だから、仕方のないことなのだと。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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