出会って十三日目 ページ14
「あぁ、私のことを知っているの?」
机に肘をついてその上に薄っぺらい笑顔を貼り付けている太宰と、それを見上げるA。張り詰めた妙な緊張感に耐えるように誰かがごくりと息を呑む。
これは直感でしかないが、おそらく此奴等は互いが互いを嫌いあっている。
所謂同族嫌悪というやつだろう。少女はただでさえ他人を拒絶するのだから、特に考えが読めない人間など受け入れ難いに決まっている。そして男も自身の幼い頃を写したような彼女を本能で拒んでいる。
『この人の大嫌いな人でしょ』
「違いないね」
『貴方も同じ気持ち?』
「勿論だよ」
端正に形作られた笑顔を崩さずにそう答える彼に、少女は最後の一口を食べ終えると、ふうんと返した。興味を失ったというよりも何処か腑に落ちたようなそんな頷きだった。
『私、貴方のことが嫌い』
目も合わせずに一言そう告げると、さっさと席を立って出入り口まで歩いて行ってしまう。呆気に取られてそれを見ていたが、己も慌てて珈琲を飲むと、荷物を持って立ち上がった。
去る間際にちらりと後ろを振り返る。
「うふふ。随分と辛辣なお嬢さんじゃないか」
その瞳は水に墨を落としてかき混ぜたように濁っていた。
**
小さな後ろ姿を見送ると、座椅子の背にかけていた外套を羽織ってそれでは行こうかと後輩二人に声をかけた。少女は無言で立ち、少年は不安そうに様子を伺いながら伝票を持って歩き出す。
けれども予想通り、会計は既に済まされていた。当然他の誰でもない中原中也の手によって。大方連れの失言で空気を悪くしてしまった責任だとか、そんなものだろう。相変わらず律儀な男である。自身は当たり前のように発する言葉も、他人が言えば失言と捉えるところなど実に彼らしい。
「あの」
「なんだい、敦くん」
「先程の彼女はどうして太宰さんのこと...」
「うーん、どうしてだろうねぇ」
曖昧な返事に彼は益々首を傾げる。もう一人の後輩は、そもそもあまり気にならないようだった。若しかすると、踏み込んではいけない領域の話だと予感しての反応かもしれないが。
中也と少女の関係はある程度予想がつく。あの男が簡単に他者を“あちらの世界”に引き込むような人間でないことは明らかだ。拾い子の面倒をみていると考えるのが妥当だろう。
問題は、娘の方だ。
自分の玩具を人に盗られて拗ねた子どものような、あの顔。
「あの手の子どもはね、玩具をそのうち壊すんだよ。特にお節介な玩具を」
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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