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「ねぇもういいー? 私たち、チュウヤにあげたいものがあるの」
重々しい空気を軽く一刀両断する少女の声に、場は一気に和やかな雰囲気なる。ありがとうエリスちゃん、貴方の背中に真っ白な翼が見えるよ。
何を渡すんだいと破顔して尋ねる首領を黙ってと一蹴してから、私をずいずいと押しつつ中也さんの方へと近付いてく。警戒したような顔の彼に少しだけ落ち込んだのは内緒だ。
「あげるわ、チュウヤ。ほらAも!」
『は、はいこれ。どうぞ』
どれどれー。見せて見せてー。勝手に盛り上がる首領とコロコロ笑う紅葉たちに、ちらりとこちらを見て確認を取ってから彼が二枚の画用紙を机に広げる。
「ほぉー、中也くんの似顔絵か。流石はエリスちゃん。上手だねぇ」
「いや、Aといったか。主もなかなか良い腕をしておるのう。中也の衣服や帽子の装飾まで細かく描きこまれておる」
一も二もなく賛美ばかりを浴びせる二人にエリスちゃんは嬉しそうに胸を張って笑う。もちろん私も嬉しいことに変わりはないが、それよりももう一人がどんな顔をしているのか。怖くて仕方なかった。
それもそうだ。彼への愛のあまり公式のイラストをを一日二十人分模写して練習した中原中也。頭で考えずとも、どの構図の彼も手が全て覚えていた。細かい装飾の陰影に至るまで全てだ。
自身でも気持ちが悪いほどの再現率である。
ぎぎぎとしばらく油を差さずに放置されていたブリキの音が聞こえそうなぎこちない動きで首を動かすと、例の男が感心したように目を開いて絵に見入っていた。
『へっ?』
「ん、なンだよ」
『いや...てっきりなんでこんなに細かく描けるんだよって気味悪がられると思って。お願いの件もありますし』
拍子抜けして素直に答えてしまい、
言い切ってから失敗したと思う。
仮に負の感情を抱いていないのだとしたら触れなければよいものを、何故絵に対する悪い意味合いでの感動の選択肢を増やしてしまったのだろう。完全にミスリードだ。
「はァ? これは観察眼の賜物だろう。そんな失敬な態度はとらねえよ」
その言葉に思わず、この男は馬鹿か?と考えてしまった。
否、ただ単に単純なのか。良くいえば他人に対して常に敬意を持って接しているといえばいいのか。とにかく私には全く読めない思考をしていた。
まあ、それが今は有難いのだけど。
この生きるうえで考慮していなかった現実に混乱した私の心は、実は自己防衛に必死だという事実に、私は薄々気付き始めていた。
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苗代(プロフ) - 斜陽族さん» コメントありがとうございます。最後の最後に一気に更新したので、急ぎすぎてしまった感じは否めませんが、そういって頂けて本当にありがたいです。環境がら多忙なことに変わりはありませんが、これからも作品を書き続けていくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2019年1月3日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
斜陽族 - 読み終わってとっても感動しました!こういう深いお話好きです。発想力があって尊敬してしまいます。これからも無理のない程度に頑張って頂けると嬉しいです! (2019年1月3日 10時) (レス) id: 4feb0da943 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - マッキーさん» コメントありがとうございます。現在とても忙しい状況で、当作品も含め連載中の作品全て手がつけられていないのですが、そろそろ更新を再開していくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2018年12月26日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
マッキー(プロフ) - 更新頑張ってください! (2018年12月25日 22時) (レス) id: 0346650c4f (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - リツさん» ご丁寧なコメントありがとうございます。主人公の設定は私を自己投影して作成している面が大きいので、読者の方にそう言って頂けてとても嬉しいです。ぜひ最後までお付き合い下さい。 (2018年11月21日 17時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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