Chapter.3 ページ4
それからしばらく今後の方針について話を進めていると、不意に戸が叩かれる。
「入りなさい」
時折、彼が心に飼う闇が垣間見える瞬間というものがある。場面は様々でこれといった一貫性はない。けれどいつも変わらず共通しているのは、闇を見せた森は酷く冷たい声で獣のように瞳をぎらつかせること。上に立つ者の器をまざまざと見せつけられている気分だった。
例によって一瞬の不敵さを現した森を横目に、扉の方へと視線を向ける。
私との密談中に入室を許すのだから、おそらく彼が呼んだ者だろう。
ぎいいと重厚な板を押して入って来たのは、覚えのある顔が二人と、知らない顔が一人。少しばかり歳が上だろう男児が三人並んで立っている中で私は驚愕に目を見開いていた。
「せっかくだし、対面は早い方が良いかと思ってね。三人とも自己紹介を」
左端に立っている背の低い男の子が一歩前にでて、ぺこりと頭を下げる。
特徴的な、夕焼け染まりの亜麻色の髪を揺らしながら。
「中原中也、14歳。尾崎班で戦闘員をしてる。一応先輩になるから、よろしく」
次は一番背の高い男の子。よそよそしい自己紹介を終えた兄と同様に一連の動きを繰り返してから、口を開く。右足の隣にはトンと松葉杖が付かれていた。
「太宰治、同じく14歳。其処に座っている森鴎外氏の下で学んでいる構成員で、現場では主に指揮官、赴かない場合は作戦立案者として参加している。最近は専ら隣のチビとの任務が多いけど。私はもちろん上司にあたるわけだが、兄弟子だから当然だね?」
此方もよく知っている。けれどぺらぺらとお喋りな男はどうやら、兄から私のことを聞かされていないらしかった。...きっと、こんな妹は恥ずかしいから、兄さんも故意に話さないでいたのだ。優秀な兄とは違って出来損ないの妹だもの。
暗く俯く私とは対照的に元気で明るい声が頭上から響く。
顔を上げると、一歩どころでなく数歩も前に出たもう一人の男の子が此方を見つめていた。
「初めましてだよね。俺の名前は志賀直哉、13歳。後ろに立ってる中原さんとは違う部隊で戦闘員をやってる。そして今日、俺と君は相棒関係になるわけだ。これからよろしく」
当り前のように突き出された手に私は酷く困惑した。握手を求められるなんて考えていなかったからだ。視線を彷徨わせて兄と森さんに助けを求めるが、目を逸らされるだけ。
手を、この手を握れと?
『中原、A。よろしく...』
なんとか差しだした手は情けなくも震えていた。
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