Chapter... ページ18
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「う、嫌だ...どうして俺が」
いつもとなんら変わりない一日、会社に出勤して数分で上司に言い渡された。“マフィアと戦争だ。準備をしておけ”。混乱した頭では処理をするのに何時間もの時を要したような気がした。
俺の知らぬところで裏社会と繋がっていた就職先は、ポートマフィア相手に何年もかけて裏切り行為を続け、それがとうとう知られて今日、全面戦争になるという話だった。
正気の沙汰じゃない!
狂ったように逃げ出そうとした俺を止めたのは、同僚だった。勝算はあるからと。
“敵は、15にも満たない子供二人だけ”
その光を失った瞳は俺を嫌に冷静にさせた。
死ぬのが怖くて逃げるなど、俺はなんて馬鹿なことを考えていたんだ。
死ぬことよりも怖いのはその子どもたちの命を奪ってしまうこと。
参加なんてしてはいけない。絶対に。
強く決意をして走り出した...
俺は、間もなく捕えられ、その無様な逃げ腰故前線へと投入された。正直者は馬鹿を見る。その戦線に立っているのは俺一人だけだった。俺が、幼子たちを最も初めに迎えるのだ。
「怖い、殺したくなんてない、死にたくもねぇよお...」
震える声とは裏腹にしっかりと握られた銃器は、傍から見ればなんともちぐはぐだろうと思うが、俺はただただ必死だった。
こつりこつりと、靴音が近づいてくる。
少しして見えたのはこちらを見据える少年と低い背の少女。迫力が遠方からでも深く感じ取れる。恐怖でがちがちと歯を鳴らしながら、銃口を向けた。
二人はなにやら会話をしているが、それすらも耳に入らない。頭が真っ白になる。
「てんで駄目だな」
その声だけはやけにはっきりと聞こえ、同時に引き金を引いた。
引いて、しまった。
が、既に少年の姿はない。認識するより早く地面へと叩きつけられた。直感で、ああ俺はこのまま死ぬのだなと悟る。もう望みなど一縷も持ってはいなかった。
その時だ。
『かわいそう』
聞こえた言葉に目を丸くした。
かわいそう?俺が?
何も知らずこの会社に勤めてしまったこと?我らが社長が楽観主義の甘ちゃんだったこと?
ポートマフィアと対峙してしまったこと?俺が、俺が。
俺の存在そのものがかわいそう?
一見武闘派である少年の方がずっとずっと危険で、畏怖の対象となる者だ。
恐ろしい殺気を放っていたのも彼だったから。けれど、違う。
本当に、恐ろしいのは、
見上げた先にあったのは無表情な少女の顔。
その光景を最後に俺の意識はこの世を去った。
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