Chapter.14 ページ15
だんだんと近づく足音に震える身体と吐息。危機的状況のはずなのに、
何故だか全ての意識がたった一言に攫われた。
『どうして、貴方が』
私が問うと、志賀は、森さんに手渡されたと言った。
「これには通信機能の他に盗聴機能もあってな。そっちが送信用でこっちが受信用、
今の今までAの動きを監視してたんだ」
淡々と告げる彼に意図せず顔を歪める。悪趣味だ、と罵ってやりたかった。
けれど、どうにも声が出ない。
黙りこくる私に、志賀はぽつりと零した。
「なあ、本当は誰よりも俺を認めてくれていたんだろう? だから“守ってやる”なんて対等じゃないように感じられて腹が立ったんだ」
『は...』
耳元に知った風な言葉が流れてくる。一瞬思考が停止して、笑う男の顔が浮かぶ。違う、お前なんて認めていない。兄に劣るお前なんて。強い否定はやはり音にならず、なるほど神は私を許しはしない。太宰に劣る私を、許しはしなかったのだと思った。
「その通りだよ」
返された言葉に、己の考えを肯定されたのだと思いぐっと身を固めた。
が、すぐさま次の声に全てをかき消されてしまう。
「俺は何処かでお前を下に見ていたのかもしれない。年上だから、武闘派だから、男だから、守らなきゃならないって。けれどそれは、もう一人の存在を否定していることと同義だった。俺とお前の二人で一つ。互いに補い合ってこそ“相棒”だろ?」
息が止まった。吸い込むことも、吐くことも出来なくて。酸素が欠如した脳内は次第に白み、考えることを放棄させる。やっと我に返っても胸が苦しい。気持ちが、声に出せない。
何か言わなきゃ、伝えなきゃ。
無口で無表情なままの私を心から信じて、分かってくれる人なんて、
兄を置いて他にいないのだから。
伝えなきゃ、いけないのに...!
「大丈夫。全部わかってるよ」
『え』
「お前の声はちゃんと、届いてるから」
通信機越しの声は酷く冷めて聞こえるはずなのに、縋るように両肩を抱いていた手は、するすると解けるように力が抜けていった。乱れていた呼吸が少しずつ整っていく。
「ただ一言、聞かせてくれればいい。俺に“相棒”として背中を預けてくれるか?」
答えろ。動け、私の口。
『...預けてあげる、から。だから迎えに来て...ッ』
絞り出した声はとても小さなものだったけれど、どうやら彼にはたったそれだけで充分だったらしい。機械の冷たい感触の奥で、素直に助けてって言えばいいのにと、笑う男の声が聞こえた。
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