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Chapter.1 ページ2

私は中原A、10歳。

五大幹部尾崎紅葉の弟子にして期待の新人構成員中原中也の妹であり、ポートマフィア専属医師を務める森鴎外の弟子。期待どころか組織内では認知もされていないただの子ども。

四年前組織に拾われて、この裏社会に落ちてきた。
求められもしない力を揮って懸命に生きている。

「やあAちゃん、いらっしゃい。今日も心底侘しそうな瞳だけれど、そこがまたいい。やはり12歳以下に限るよねえ。どんな表情をしていても可愛いなんて罪な年頃だよ」

箱から出ることを許されたのは今日が二度目だった。閉塞的で息苦しい空間から久しく外へ踏み出したというのに、構わぬ黒服に急かされるがまま私は森さんの執務室に訪れている。

形だけ従順に、傍から見れば生意気ともとれるような光を宿さない目を男に向けると、少し離れた場所でお絵描きに勤しんでいた人形の如く可憐な少女が高い声を上げた。

「リンタロウ、きもい」

「ご、ごめんよエリスちゃん。君が一番可愛いさ!」

「黙って」

全く見当違いな返事にふんと顔を背けた少女、エリスが今度は此方と視線を合わせて帳面を付きだした。その綺麗な宝石のような瞳はいつになく爛々と輝いている。

「今日はこの部屋であそびましょ、A! いつもあなたの部屋ばかりだもの。ここならおようふくも、おかしも、にんぎょうも、なーんでもあるわ。なくてもリンタロウが買ってくる」

自慢げに胸を張るエリスは言わずもがな可愛らしい。尖った態度や多少我儘な部分はあるけれど、それも愛嬌として受け入れられている彼女は私とは大違いだ。

兄さんと黒服の大人の他に退屈の箱へ唯一足を運んでくれていたのが彼女だった。なにもない部屋でお喋りして、彼女が持ち込んだ人形や帳面を使って遊んで、内緒よという言葉を合図に美味しい洋菓子を頬張って。私を笑わせようとしてくれた。

つまるところ、エリスはとても優しい女の子なのだ。
けれど...。

「駄目だよぉ、エリスちゃん。彼女は今から私と大切なお話があるんだ」

「仕方ないわね。あとであそびましょ、A」

きっと本当のお友達ではないから。

あの娘が私に構いたがるのも、優しくしてくれるのもみんな森さんが望んだこと。彼女は彼の“異能”だから。ひとりぼっちの可哀想な私に部屋のように宛がわれた存在。友だちじゃない。

『はい、エリス嬢。またあとで』

わかっているはずなのに、どうして胸が痛いのか。
机に積まれた本に答えは載っていなかった。

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作者名:苗代 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年5月18日 22時

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