Prologue ページ1
『おにいちゃん、またおしごと?』
「ああ。行ってくるな」
たった一人の家族と共に拾われて宛がわれた部屋。子ども二人が暮らしていくには少々広すぎる室内は、一つ影が消えてしまうだけでこんなにも寂しいのだ。
箱のようなこの空間に一日中閉じ込められた私は、毎日毎日黒服の大人と顔を合わせて、会釈をされて、それだけ。興味もない学問の本と気休めに与えられる甘味、同じくらいの背丈のクマのぬいぐるみ。退屈を詰め込んだような箱は少しずつ私の首を絞めていく。
『あなたのおなまえは? そう、クマさんっていうのね。私のなまえは__。おにいちゃんが帰ってくるまでは、おべんきょうをしながら待ってるの。とてもつまらない』
走らせていた筆を止めて、休憩の間にぬいぐるみと向かい合わせに座り話しかける。もちろんそれは、言葉を返すことはない。相槌も打たない。微笑まない。会釈すらして見せない。
ばしん、と音を立てて
『でも、あなたはもっとつまらないね』
きょとりと首を傾げたクマの頭と胴の隙間からは、ふわふわとした白い綿が飛び出している。けれど今の私には心底どうでも良いことだったから、そのまま放って、再度机に向き合った。
死臭を纏って帰宅する兄を、ただ待つための茶番だ。
340人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ