異質な君【歌い手】 (ページ3)

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ぴんぽーん。

｢ん、にゅ……｣

無機質な機械音、不快なそれにムクリと身体を起こす。
ミクさんの声は平気なのに、シンセサイザの音も平気なのに、テクノポップだって大丈夫なのに、ブザーやタイマーの音やインターホンは昔から苦手だ。
軽く手ぐしで髪を整えて、よたよたと玄関に向かう。
玄関のそばのコルクボードに貼られた｢インターホンが鳴った時のマニュアル｣を見て、ドアのレンズから外に誰がいるかを確認する。
カメラ越しの映像を生中継で見るのは苦手だからと、最新式のインターホンじゃない所にわざわざした。

｢んぁ、天月か｣

そこにいる人を確認すれば友達が来た時のマニュアルに切り替える。
家中にあるこのマニュアルは、全部歌い手として活動する中で仲良くなった人たちが作ってくれた。
俺は、指示されたことしか出来ないから。

ドアを開けて、｢おはよ｣なんて挨拶をしてみると爽やかで無邪気な笑みでおはようと返される。
よく眠れた？……う〜ん。まぁまぁかなぁ。なんて会話をしながらマニュアル通り彼を招き入れて、お茶(ペットボトルのをグラスに注いだだけだけど)を出す。
全部出来れば天月はよく出来ましたー、なんて褒めてくれる。

そう。たったこれだけの事でも、健常者……定型と言われてる人達は意識していないだけで情報量がすごい。
定型にはなんてことないことだって、俺にとってはパニックを引き起こすほど大変なのだ。

｢それ随分長く使ってるよね。俺たちで作ったやつ｣

｢その説はほんとありがとね。ありがたーく使わせてもらってまぁす。今のとこ無くしてないし！｣

｢うんうん、偉いねー｣

無くし物が多いのも発達障害の特徴。実は無くしてませんでした！ってパターンが多いけど、どうにも見つけられないのが俺たちだ。そして別のもん探してる時に見つかる。

みんなはそんな俺の事を受け入れてくれる。
そんな俺でもいいよって言ってくれる。
理解してくれる。
そんなことも出来ないのと言わないでくれる。
それが、ただその事が嬉しい。