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陸拾伍 ページ25

赤、朱、橙…

周りの色が焔を象徴する色に染る。そして、その光景を際立たせるような人の声。たくさんの人が逃げ惑う声、誰かを探す声、諦める声。
明暦の大火は三日間に続いて起きた火災によって引き起こされた。最も要因として大気の乾燥が原因だった。だが、これだけはなんとも言えない。どんなに未来がわかっていたとしても、曲げられない。
鎬の視界に一人の小さい子供が映る。熱いはずなのに、目を擦りながら誰かを探している。この身体を得てから出来た『心』が傷んだ気がした。心に傷が着くなんて、ありえないのに。

目の前に見えた大きな門の前にたくさんの人がいる。嗚呼、あそこが誤報を信じて閉められた門だったのか。必死に門を叩く人、神に助けを求める人、諦めて俯く人、壁をよじ登ろうとする人…やり方は様々で、滑稽で、可哀想で。
自分は平然として壁に飛び乗った時、下の人々が自分を凝視して助けを求めるように手を伸ばしてきた。
一瞬だけ、魔が差したような気がした。少しだけでも助けていいんじゃないか…少しだけ、小さな子どもでも助けても…
でも、それがなんになる。この時代、子供が生き残るには難しすぎる。
自分が伸ばした手を握りしめ、振り向いて集合場所の方を向いた。




「ごめんなさい…」




そう、弱い声でつぶやくと壁から降りたって森へ向かった。途中、脱獄者だと思ったのか役人達が追いかけてきたが、それを建物を使って撒いた。
たくさん煤が着いた。それも、たくさん。
本当は助けたかった。あの、差し出された手を握って避難をさせておけば、きっと、きっと…
だが、それは改変に当たる。だから、その無力な手を自分は振り払うように無視した。
振り向けば、江戸の町は焔に飲まれていた。あの、自分や兄弟、知り合いの刀達がいた蔵はもう既に焼き尽くされているだろう。


「鎬…」

「…後藤…俺、」

「帰ろうぜ、それからいち兄のとこにいこう…」


自分の顔は涙と煤で汚れていた。いくら自分がいた時代の改変を止めるとはいえ、救えただろう命を見て見ぬふりをして進んでいった。
後藤に促されるように歩くと部隊がいた。不動正宗もその場にいた。

「……今回の作戦は成功。この結果は政府に知らせるね。…この時代も守れた、守れたはずのものは無くしちゃった…この時代は僕にとっては思い出深い所であり、苦しい所だ。それでも君らは進んだ。紛れもない勇気、称えるよ」

そう言って、部隊と不動正宗は元の時代に帰って行った

陸拾陸→←陸拾肆



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東雲 - この作品大好きです!ゆっくりでいいので続きを楽しみにしています(*^^*) (2021年4月13日 21時) (レス) id: 3d369926d3 (このIDを非表示/違反報告)
空桜(プロフ) - お疲れ様です!のんびり待っててよかったです^^ (2020年1月31日 0時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
鶴まじ天使(プロフ) - ヤバイ好きだぁぁぁぁ…!更新頑張ってください!! (2019年5月13日 22時) (レス) id: 2390bd5229 (このIDを非表示/違反報告)
葡萄月@刀アカ - ぎゃぁぁぁ!!神作品を見つけてしまった!!更新頑張って下さいっ! (2019年5月13日 15時) (レス) id: a246b0d986 (このIDを非表示/違反報告)
自由陣(プロフ) - おお!ありがとうございます!覚えてますよー、ティッシュの方!最初のところの研究者の江成ちゃんは研究熱心…(?)の域を彷徨ってます← 更新頑張りますよ〜! (2019年4月29日 20時) (レス) id: b178f06fe6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:自由陣 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/rekishilov1/  
作成日時:2019年4月28日 15時

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