陸拾壱 ページ21
「倉庫の中の刀剣は未だ健在…ってか」
「嗚呼、俺もちゃんといる…ちゃんと、ね」
鎬と後藤の目の前にあるのは刀剣を入れていたとされる蔵だ。その中でも鎬の居た蔵だ。
現在彼らは蔵に空いた窓のようなところから彼らの様子を伺っていた。後藤は鎬をちらっとみた。嬉しそうな、物悲しそうな顔を浮かべて過去の自分とその周りの刀剣を見ている。
それもそうだろう、これから歴史どおり消え行く存在であり、忘れ去られてしまう存在でもある。
「話さなくていいのか？」
「いや、まだ言わないよ。これが終わって焼けている時に…いや、焼ける前に言おうと思ってる」
「俺は鎬の気持ちがわかんねぇ」
「…」
「確かに俺は徳川の刀だ。でも、それ以前に兄弟としての鎬を知らねぇ。それだけは事実無根。あの時、粟田口派の刀が燃えたって知った時、誰が燃えたかわかんなくなってた。嗚呼、俺達は火に好かれんのかって理不尽さを恨むくらい」
「そうだな…粟田口派は焼失が多々ある…俺といち兄、鯰尾兄に骨喰兄、薬研……もしかしたらもっとあるかもしれないな」
「でも、俺は鎬のこと知れて満足してる。さっき分かんねぇって言ったくせにさ。俺の兄弟にこんな奴がいたんだって言うのがあったし、これからもいてくれると信じてるからな」
「……こはずかしいからやめて」
「ひでぇ、褒めてんのに」
その後、彼らは蔵の中にいる刀剣達に目をやった。話す者、ひたすら動かない者、落ち着かないのかうろつく者…過ごし方は様々と言えようがどれもこれも同じ付喪神であり、刀剣だった。
「南泉達は上手くいってんのか？」
「さぁ？今は、物吉とソハヤとの合流が先だな」
二人が蔵を後にする時、ふと鎬は後ろを振り返る。
入れ物を伊達に置き去りにし、本体だけこの徳川が住まう江戸にやってきた彼は、江戸をどう思っただろう。
理不尽の集まりか、私欲の集まりか。
定かではないが、これだけははっきりと感じた気がする。これは自分の物語にして自分の結末。どう足掻こうが、どう喚こうが元通りにすることを優先させなければならない。過去の自分を今の自分で絞めるように確実に絞めていこうとしている。それが仕方ないのだ、深くは感じないようにしなければ。歴史の抑止力や補修力によって元通りになっていこうとする世界に、自分が現存したという存在入らない。
俺はただの思念体にして残留思念。本来いるべきでは無い刀剣には変わりないのだから
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 465人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
東雲 - この作品大好きです！ゆっくりでいいので続きを楽しみにしています(*^^*) (2021年4月13日 21時) (
レス) id: 3d369926d3 (このIDを非表示/違反報告)
空桜(プロフ) - お疲れ様です！のんびり待っててよかったです＾＾ (2020年1月31日 0時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
鶴まじ天使(プロフ) - ﾔﾊﾞｲ好きだぁぁぁぁ…！更新頑張ってください！！ (2019年5月13日 22時) (レス) id: 2390bd5229 (このIDを非表示/違反報告)
葡萄月@刀アカ - ぎゃぁぁぁ！！神作品を見つけてしまった！！更新頑張って下さいっ！ (2019年5月13日 15時) (レス) id: a246b0d986 (このIDを非表示/違反報告)
自由陣(プロフ) - おお！ありがとうございます！覚えてますよー、ティッシュの方！最初のところの研究者の江成ちゃんは研究熱心…(？)の域を彷徨ってます← 更新頑張りますよ〜！ (2019年4月29日 20時) (レス) id: b178f06fe6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：自由陣 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/rekishilov1/
作成日時：2019年4月28日 15時
