1 ページ1
「ヒナちゃん」
男は愛おしそうに、小さな簡易的なベッドの上に寝かされた動かない人間の頬を撫でて口づけする。
2年前に死んでしまった身体は朽ちることなくその形をとどめ続ける、まるで時が止まったように
男の身体が老いることはない
ヴァンパイアに寿命はない
一定の年齢までは成長するが、それ以降老いることはない
長いまつげ、小動物のような可愛らしい鼻と口、ヴァンパイアのような八重歯と少し歯並びの悪い歯も、荒れた肌も全てが愛おしいと思いながら身体のひとつひとつのパーツを指先で確かめていく
朝なのに遮光カーテンで締め切られた部屋は時を止めたようにその姿を残し、今では使う必要もなくなった調理道具もまるで毎日使っているかのように綺麗に手入れされている。
「そろそろ朝ごはんやね」
男は立ち上がり食パンを一枚トースターに入れる。
「ヒナちゃんの好きなオムレツを作ってあげる」
卵と牛乳と塩コショウをボールに入れて菜箸でかき混ぜる。火をつけたフライパンに油を敷いて注ぎ込むと縁が固まっていく。手前にかき寄せて形を整えてひっくり返す
チンとトースターのパンが焼けた音を聞いて皿にトーストを乗せてフライパンの火を止めてオムレツを隣に乗せる。
ケチャップをかけて冷蔵庫からレタスの葉を一枚ちぎって水で洗って3枚ほどにちぎって盛り付ける。
「ドレッシングなにがいいかな?ゴマドレでいい?」
冷蔵庫をもう一度開けてゴマドレッシングを取り出してレタスにかける
男は皿を持ってリビングの中心のベッドに寝かせられている人間の形をした物の近くに座る
男は幸せそうに微笑みながらその顔を見つめる。立ち上がってゴミ箱の中にトーストとオムレツとレタスを入れる
「ヒナちゃん愛してるよ」
誰もいない空間に投げられた柔らかい言葉は虚しく消えていく
毎日10時過ぎになると訪問者が訪れる。男がドアを開けると男より少しだけ低い身長の茶髪に軽いパーマをかけた男が立っている
「りゅうちゃん、いらっしゃい」
男がそう言うとりゅうちゃんと呼ばれた隆平は玄関で靴を脱ぐ
「お邪魔します」
中に入っていく男の後ろについて隆平はリビングに入る
リビングの中心に2年前から変わる様子のないヒナちゃんの死体が置かれていることに隆平は毎日心が針金できつく締め付けられるような気分になる
「今水出すわ」
男はキッチンに入って3人分のコップに水を入れる。
23人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
misuzu(プロフ) - オリフラ外してください。 (2017年6月27日 17時) (レス) id: 06d2977927 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:コーヒー豆雛子 | 作成日時:2017年6月24日 14時