融解。【地縛少年花子くん】 (ページ2)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:167,281 hit

2回目ページ2

．

それからはちゃんと花子さんも後ろを向いてくれて掃除がはかどった。

「じゃあこれで終わったから私もうそろそろ、」

「今帰るとちょうど部活の生徒と被っちゃうし…もうちょっとだけゆっくりシヨ？」

花子さんの言うことはもっともだった。
この時間はちょうど部活をしていた皆が帰る時間だし階段とかもすごく混む。
まあ確かにあまりにも無謀だとは私も思うけど……今日はもう帰りたい気分。

でもそんなことを花子さんがさせてくれる訳もなく、痛いほどに掴まれた手をなんとか離してもらって渋々、横に並んだ。

「ネーっ、勉強って難しい？」

「……普通だと思う」

なに急に。
突拍子もないことを聞いてきた花子さんをチラリと見た後に夕日を眺める。

「Aは部活を入ってないんだっけ」

「トイレの掃除してるんだから部活なんて入ってる暇もないでしょ」

「そっか、…そうなったのは誰のせい？」

「花子さん」

契約さえ結んでなければ、部活して皆と笑いあって青春の文字だってあったかもしれないのに。

「そ、俺のせい…俺のせいかぁ」

青筋が立ちそうなくらいにこやかに笑う花子さんに嫌気がさす。

思わずジッと見つめるとまだ浅い色の夕焼けを溶かした様な目と目が合った。

「なぁに？俺に見惚れてたの？」

「…別に、違うもん」

そう言ったところでそういえば、と左手首に着けている腕時計を見てみるとちょうど良い時間。

女子トイレから出ようとその方向へ向かうと短く名前を呼ばれた。

「Aっ、」

振り向かずに進めていた足だけを止める。
それから数秒間、花子さんの声は聞こえなくて後ろを振り返ろうとしたその時。

「忘れもの」

後ろから抱きしめられた。
そうしてすぐに耳元でそう囁かれ、首筋に吸いつかれた。

ちぅっ、と高めの音が鳴ってそれが女子トイレに響き渡る。
なんとか抵抗しようと腕を動かすと身体を動かすことすらも許さない、とでも言うようにキツい力でまた抱きしめられる。

「だーめ、まだ足りない」

ちゅっ、ちゅっ、とエンドレスに続くそれがむず痒くて今すぐ逃げ出したい。

不意にあはは、と誰かが笑う声が近づいてくる。足音も聞こえてるから階段を上ってこっちに近づいてきてるらしい。
それすらも冷静に分析する思考回路も無く、恥ずかしさに耐えながらやっとの事でそう思ったのだった。