【中堂系】甘く檸檬のようなキスをして２

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先生の優しさが、私の心をきゅっと締め付ける。


気がつくと、もうアパートの前まで車が到着していた。木林さんにお礼を言い、家の鍵を回す。


「…」


照明を付ければ、真っ暗な部屋が一瞬にして
明るくなる。


私はこの部屋の暗さが嫌いで、わざわざ寝室の明かりまで付けに行くのが癖になっていた。


私が帰れば、もう部屋が明るいなんて事は13年前から叶わない。だから嫌いなのだ。





それに加え、行ってきますただいまの一言が言えない。誰も返してくれないのが虚しいから。


今日は特に、虚しかった。
重い足と心を引きづり、ベッドへ身体を沈める。


そして何となく、携帯の電話のアイコンを開き
画面に表示される中堂系の文字。


…もう寝てるよね。今掛けたって、迷惑だよね。


ため息を一つ吐き、そっとアイコンを閉じようとした時、間違えて通話ボタンを押してしまった。



「ちょ、ちょっと待って…！」


焦りから、上半身を起こしすぐさま通話終了のボタンを押そうとする。


コール音がさらに追い討ちをかけるように私を慌てさせるが、先生の方が早かった。





携帯の向こうから「…どうした？」と声が聞こえて益々焦る。


私は慎重に携帯を耳に当てる。
すると、「おい、聞こえてるのか？」と中々話さない私を不審がる先生の声がした。




「…す、すみません。何だか、先生の声が聞きたくなったっていうか、淋しくなったっていうか…」


緊張の所為で、思った事をそのまま口走ってしまい、ハッと息を呑んでから咄嗟に否定する。




「い、いや違います！今のナシで！本当すみません！こんな時間に迷惑ですよね」


一息でまくし立てながら全て話すと、先生は
「落ち着け」と冷静に話す。




「…目を閉じて、俺の声だけに集中しろ」

私は頷きながら、言われた通り瞼を降ろす。
すると自然と落ち着きを取り戻し始める。



「あの、ありがとうございました。木林さんの事…無事に家まで着きました」


「そうか」


目を閉じているからなのか、まるですぐ近くに先生がいるような錯覚がする。

その低く、掠れた声が私の耳に溶け入り
ふわりと心を軽くする。それだけで、涙が溢れてしまうのは、緊張が解けているからなのか。




「…何だ、今度は泣いてるのか」



私の息がしゃくり上がっているのが
携帯越しにすぐバレてしまう。



「すみません…」


「お前、クソほど忙しい奴だな」


先生の柔らかい声音とともに
夜は更けていく。


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