【中堂系】甘く檸檬のようなキスをして２

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毛利さん曰く、生存者に切り傷等はなく
仮に9番さんの血と一致すれば、11番の容疑が濃くなる。


三澄先生が生存者の火傷の状態を尋ねると、


「そう言われると思って、病院に捜査協力を依頼したら、教授先生がここへ直接来るって…」

と毛利さんが話している間に、規則正しい足音が、オフィスの前で止まる。



所長に促され、オフィスに入ってきたのは
眼鏡をかけた1人の男性。

その男性は私達を見据え、自己紹介を始める。


「いつも愚息がお世話になってます。帝日大の久部です」




久部…という名前にデスクに座っていた私は、ホワイトボード前の久部くんを振り返る。


すると、明らかに動揺している久部くんは
気まずそうに俯く。様子から見て、あまり関係は良くないということが、ひしひしと伝わってきた。



ガラス張りの会議室に移動した三澄先生達に
お茶を運んでいくと、


「患者さんは軽度の気道熱傷と、背中の広範囲熱傷で鎮静したまま集中治療を行なっています。ある程度完治するまで鎮静を継続するので、当分会話はできません」


と、久部先生の話が耳に入る。


発見時の胃の内容物について、三澄先生が問うと、久部先生は目を丸くして顔を上げる。


「他のご遺体と同じものが出れば、同じお店にいたという証拠になって、状況の解明や身元判明に役立ちます」と三澄先生が、補足説明する。


それに対し、含み笑いをする久部先生は
「胃を切り開いて、中身を見ろと？」と、棘のある言葉を放つ。


「我々が見ているのは、生きている人間です。死体ではない」



久部先生が帰られる際、「本日はご足労頂きありがとうございました」と厳格な背中に声をかける。


「いえ。一度伺おうと思っていたんです」


エレベーターまでの廊下をついて歩く。
すると、久部先生が「単刀直入に言います」と口を開く。



「息子を解雇して下さい。安月給のバイトなら誰でも＿＿＿＿」


「やめてください」


距離を置いて歩いていた久部くんが、先生の言葉を遮って制止する。



「三浪して三流医大というだけでも底辺なのに
勝手に休学して、解剖医の使いっ走り。恥ずかしいと思わないのか。早く医者の道に戻れ」

先生は振り返り諭すように言うと、俯いた久部くんがちらっと私に視線を向け、



「法医学者だって、立派な医者です」


と、喉から声を絞り出すように言う。


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