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ありがとう、テヒョン先輩は一言だけそう返して私の発言を特に掘り下げたりはしなかった。
言われ慣れているということだろうか、流石イケメンは生きている世界が違う。

それでもテヒョン先輩は大学ですれ違う度によく話しかけてくれるようになった。
私の顔を(おまけに名前まで)覚えてくれたようで、「あ、Aだ〜！」ってにこにこ笑って呼んでくれる。
正直言ってちょっと、いやかなり嬉しい。

「Aー！」

噂をすればなんとやら、テヒョン先輩の呼ぶ声がする。
振り向くとこちらに走って来ていて、自然と私も先輩に歩み寄った。

『どうしたんですか？』

「これ。この間言ってた本！」

『あ！ありがとうございます。…これを渡しに？』

「うん、さっきジョングガとすれ違って、Aあそこに居ますよって教えて貰ったからさ」

もう肌寒くなってきたというのに額にじわりと汗を滲ませるテヒョン先輩。
わざわざ私の為にここまで走って来てくれたことがただ可愛くて、たまらなく嬉しかった。

『本当にありがとうございます。今度何かお礼しますね』

「僕はAが喜んでくれたらそれでいいよ。」

『お返しになりません。ㅋㅋㅋ』

会話の内容がなんだかくすぐったくて笑っていると、テヒョン先輩が真剣な顔でこちらを見ていた。
お互いの視線が絡むと先輩は少しだけ屈んで私の耳元に口を近付ける。

…何か言われる、そう思ったのにいくら待ってもテヒョン先輩の声は聞こえない。
顔を上げるとそこには驚いた顔をするテヒョン先輩。

「ちょっと、人の女に何してくれてんの。」

今度は私が驚く番だった。