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心の準備が、と思って腕を引っ張ってみてもジョングクくんはびくともしない。
顔だけ見たら可愛い男の子なのに、顔に似合わず力はとても強いみたいだ。
そのまま連れ去られるように連れて行かれたのは資料室。

「ヒョンはね、静かな場所が好きなんだよ」

さっきまで同学年の男の子だったはずのジョングクくんが、テヒョン先輩の話をしている間は弟のように感じた。
家族構成は知らないけれど、実生活でも末っ子なのだろうか。と、気を逸らすためにまた余計な事を考える。

「あ、ほら。」

ジョングクくんが無邪気に示した方向を見ると、テヒョン先輩が1人で座って本を読んでいた。

「ヒョン。テヒョンイヒョン！」

呼び掛けに応じて顔を上げるテヒョン先輩。
ジョングクくんの顔を見ると、嬉しそうに微笑んだ。

「ジョングガ！どうしたの。」

「僕の友達がヒョンと話してみたいって言ってたので連れてきたんです。」

「ふーん。女の子？」

そう言ってテヒョン先輩がこちらを見上げる。
既視感のある返しに記憶を遡ると、ジョングクくんも"ふーん。"と言っていたことを思い出した。
言い方も声のトーンもそっくりだ。

「頭の悪い子じゃないですよ。ヒョンと話も合うと思います」

『え？』

「ジョングガの紹介ならそんなの気にしないよ？」

状況がよく掴めないまま座りなよ、と促される。
助けを求めてジョングクくんを見ると、頑張れ！と言うように笑ってガッツポーズをしている。

「じゃあ僕はこれで。」

『え、ちょっと、』

「もう行くの？」

「はい。課題の提出があるので！」

テヒョン先輩も名残惜しそうにしていたというのに、風のように、いや、風よりも早くジョングクくんは立ち去った。

「行っちゃったね」

『…そう、ですね…。』

「それで？僕に何か用？」

しっかりと目を合わせてテヒョン先輩が尋ねてくる。

『あ、いや特に…』

「？」

はっきり言いなよ、テヒョン先輩のまっすぐな瞳がそう言っている気がした。

『…私、先輩のことが好きで。』

流れるように口から出た言葉。
咄嗟にこんなことを口走ってしまうのは、きっとジミン先輩に感化されている証拠だ。