第八十七話 愛というものは残酷 ページ42
私は力のないその手をしっかり握って
『はい。約束します。必ず連れて帰ってきます』
乱「約束、だよ」
涙目の彼に微笑んだ。
三日月「俺からも頼む。そしてお前も必ず戻ってきてくれ」
『…はい。約束しましょう』
私は暗い闇の底に足を踏み入れた。ずぶりと私を飲み込んでいく闇。どこまでも落ちていくような感覚だ。
『…』
誰かの悲鳴や嘆き、叫びがいびり交じって私の心に問いかけてくる。
『悪いけど私は死ぬわけにいかない』
このまま死んだら大量の仕事を残したままで政府はきっと手が回らないし…いやそれはそれでいいのか？違うそうじゃない。
『あの子達の約束を果たすため』
太刀をしっかり握り、構える。
黒いものが私を囲う。
こんのすけ「審神者様」
『――』
一気に抜刀し黒いものを切り裂く。そして
『見えた』
黒いものに取り囲まれている山姥切を。泳ぐ感覚で私は山姥切に近づく。
『山姥――』
突然襲われ太刀で防ぐ。互いの刃から火花が散る。
『陸奥守さん…』
陸奥守「……どうしてここまできたんじゃ…なあ！！！！」
もう陸奥守の姿は影のように真っ黒だ。表情も何もわからない。
『陸奥守さん。貴方はずっと一人で背負ってきたのですね。この本丸の呪い全てを』
陸奥守「…何を」
『貴方の本丸の初期刀は山姥切さんですよね。そして陸奥守さんは初鍛刀』
陸奥守「……」
『あの山姥切さんがいた部屋も元々は陸奥守さんの部屋だった』
陸奥守「……あぁ。そうじゃ…元々山姥切が全てを仕切っていたんじゃ。主が壊れる前までな…主は山姥切に好意を抱いていた…山姥切はまっこと綺麗な刀じゃからな。でも…山姥切は主の告白を受け入れんかった。それから主は壊れた。しまいには…ワシら全員をすべてを主は呪った」
だらりと陸奥守の手が力なく垂れる。
陸奥守「…止めようとしたんじゃ…だがもう遅かった…全て」
陸奥守が一番最初に呪いに気付き審神者を殺した。いや陸奥守はそれ以外に…
『貴方も主さんを』
陸奥守「はは…人の体は、心は厄介じゃのう」
泣いている。黒くなってしまった彼でも泣いている。
陸奥守は呪いを一番受けていたためもう戻ることは出来ない。けれどまだ山姥切なら助けられる。だが陸奥守がここに彼を連れてきたのは呪いの影響で主さんの気持ちを。一番知っているからだ。
陸奥守「おまん…山姥切を連れて戻るんじゃろう…すまんがワシはそれを阻止しなきゃならん」
また彼が刀を構える。
陸奥守「次は守るぜよ」
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作者名：稲森 | 作成日時：2021年3月11日 22時
