第七十五話 もう一つのif ページ30
『心だけは折れないでね』
笑って俺に言った。あんたはどんな敵よりも。前の審神者よりも政府よりも。どんな呪術よりも厄介な呪いだ。
こんなに苦しいことはない。審神者から暴力を受けている時よりも酷く痛い。仲間が目の前で折れてしまうよりも酷く辛い。
この呪いがとけてしまう前に。刃が折れてしまっても俺は必ずあんたを探す。
『やまん…ば、ぎり?』
俺がもしあんたを見つけることができたら、どんな顔をするんだろうな。
川上「それって…」
上代「審神者様はもう一つの可能性を見てしまったのですね」
池から過去へ飛ばされた私。あの山姥切は
『私が死んだ後の山姥切だと思います。ずっと私を探していた。もういない私を…』
飛ばされた直後。山姥切を私を見ていたあの顔が今でも離れない。鮮明に覚えている。
『山姥切が霊力の繋がりがない事はすぐにわかりましたので…』
上代さんと私と通信越しの川上。紙での報告書を仕上げたうえで。私は直接話したいことがあるとこの二人だけを呼んだ。
上代「こういうの確かifの世界、なんて呼ぶらしいですが。まさに審神者様はそのifの世界の山姥切様を引き付けた、と。時間軸に呼ばれる正体がこれでわかりましたね」
川上「判明したのはいいけど…それはそれで大分問題になるのでは……」
そうだ。強い想いを持った男士が他の時間軸を巻き込んで行方が分からなくなってしまうことは刀剣男士と審神者の関係を改めて見直す必要性が出てくる。そうなれば
『…最悪男士たちとの接触が禁止される可能性が出てくるかな川上』
川上「はい…今の段階では何とも言えませんが十分にあり得るかと思います」
『……』
川上と上代はこの件をかなり重視していた。何せ最強審神者と言われたAがこの件で大分弱ってるように見えたからだ。普通に話しているように見えけれど。
だがA自身も感じ取っている。この件で自分が大分まいってることを。あの山姥切は過去の私の言動で苦しませてしまったのだから。
『……ふぅ』
川上「あの。もう一つ…先輩のご先祖様のことで」
『あぁ。薬研たちがしっかり守ってくれたから大丈夫』
まさかあの時代に私のご先祖様がいるとはね…恐らく私の祖父の方。
上代「薬研様何か仰ってましたか?」
『え?確か――』
薬研「顔が大将に似てた、というよりは雰囲気、オーラが大将まんまだったな。だから気持ちとしては大将といる気分だったぜ」
私は祖父似であることが確定した。
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作者名:稲森 | 作成日時:2021年3月11日 22時