第五十八話 彼の心 ページ13
一方その頃
鶯丸「…来たな」
踏切の警告音と電車が通り過ぎる風の音。こんのすけは風の強さに目を閉じるが鶯丸はしっかり前を見ている。
謙信「ただいま、かえったぞ」
小さくとも頼もしい隊長は誇らしげに鶯丸の元へ。
鶯丸「無事で何よりだ」
長義「あぁ。出迎え、感謝する」
鶯丸「では、行こう」
七振りは主が待つ部屋に戻る。
山姥切「…ふぅ」
鶴丸「お疲れさん！」
縁側に座り休憩をとる山姥切の隣に座る鶴丸。
山姥切「手合わせか」
鶴丸「おう！今回は髭切だったんだが……」
苦笑している鶴丸。
鶴丸「本当あいつは…怖いなあ」
山姥切「…あんたと髭切はそんなに練度は変わらないはずだが」
鶴丸「力とかそういう問題じゃない……お前もなんとなく感じるんじゃないのか？」
そういわれて山姥切は思い出す。いや思い出すまでいかなくとも。
山姥切「……そうだな」
鶴丸「ほらな。で、今日は人が来てるんだろう？どうなんだ？」
山姥切「…」
黙り込む彼に鶴丸は察する。けれど決して顔には出さない。それが鶴丸。
鶴丸「ま。細かいことは気にすんな。主が許してくれるならそれでいいだろ？」
山姥切「そうじゃない。確かに……そうだが…」
鶴丸「？」
山姥切「…俺はもう人は嫌いではない。苦手、だが。それでもあいつのおかげで人を見る目が変わった。もう殺そうだなんて思いはしない。だが……また違う感情が湧き上がるんだ」
鶴丸「ほう？どんな感じだ？」
山姥切「……近づきたくない、けど。離れたくもない。そんな……」
己手を見て山姥切は驚いた。小刻みに手が震えているのだ。咄嗟に手を隠す。
鶴丸「…お前、怖いんだろう」
そして隣から思いがけない言葉が飛んでくる。
山姥切「…は？」
鶴丸「怖い。恐怖だ」
山姥切「どうして俺が怖がらなくてはならない…人は俺たちが一振りすれば簡単に――」
あぁ、そうか。
山姥切「…脆くて。弱くて。貧弱で。繊細で。俺たちが手を掛ければ消える…俺は……お前の言う通り。怖いんだな……」
ははっ、と山姥切は己の顔に手を当てて力なく笑った。
山姥切「あぁ……怖くて、怖くてたまらないんだ！」
鶴丸「…」
山姥切「あいつはいつか死ぬ。人は俺たちより速くな。それが…怖いんだ……あいつがいなくなったら俺はっ…！！」
体中が熱い。握りしめて手が痛い。心が熱くて痛い。
ポロリ、と流れていく雫が雨のように降りだす。
第五十九話 源氏って怖い→←第六十七話 怪異と遡行軍以外なら？
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作者名：稲森 | 作成日時：2021年3月11日 22時
