第四十一話 ドラゲナイ ページ43
三日月「振り返ってはならぬが主が振り向く様に仕向けてくるだろう」
立ち止まる三日月。
『…三日月―』
気付けば三日月の腕の中。強く優しく抱きしめられる。
三日月「…すまなかった」
今にも消えそうな声。そんな声を今まで聞いたことがない。
『三日月が謝ることなんてない』
私は涙を拭いた。抱きしめて静かに泣いている彼の涙を拭うために。
『三日月はよく頑張ってたよ。今まで本当にお疲れ様。そしてありがとう。私、幸せだった。いい刀たちに恵まれた』
三日月「我らも…俺の方こそ。良い主に恵まれた。俺も。幸せ、だったぞ」
笑った三日月の顔。涙でぬれた顔。彼は誰よりも美しく強い。誰よりも脆く儚い。誰にも見せない弱さ。それを私は良く知っている。
優しく拭うAの手にすり寄った。とても愛おしそうに。
『行かなきゃ』
三日月「あぁ。俺も行かなければ。最後まで見送れなくてすまんな」
『ううん』
三日月「この先は本当に辛いぞ。だが忘れるな。清光も言っていたが我らはいつもそばにいる。共にある」
『うん』
三日月の顔が近づく。互いの額が触れる。
三日月「ではな。主。またいずれ、な」
『またね』
笑い合い、その温もりから離れる。
私は歩く。光りが続く方に。
三日月「……っ」
溢れ出す雫。
天下五剣だから。三日月だから。強く美しくなければならない。そんな概念を少なからず持った三日月。けれど
『三日月は三日月だよ』
何気ない一言だった。けれど彼にとってそれは救われた言葉だった。
三日月「っう…」
平安末期から生まれた彼からすればAはまだ幼子同然。今にも壊れてしまいそうな優しい心を持った主。不安で仕方なかった。
俺が守らなければ。あの子は。主はいつか壊れてしまう。
三日月「あぁ、我が主」
どうか俺のそばで。ずっと…
守らなければならない存在はいつも俺から消えていく。いつも俺は守られてばかりだ。だから…最期だけ。
三日月「守らせて欲しかったのだ…許せ、主っ…ゆる、してくれ…」
お前を残していく俺を…
『三日月!!!!』
三日月「!」
声に顔を上げる。背を向けた主がいる。
『自分を責めない!!!』
顔は見えない。
三日月「主――」
『私は幾度も三日月に救われて来た!!だから責めない!!泣かない!!しょげない!!…なーんてね!!」
大声で背を向けたまま冗談を言う主。それはもう幼い主じゃない。
三日月「…はっはっは!」
彼は笑った。
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作者名:稲森 | 作成日時:2020年12月21日 22時