57話 ページ9
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これは呪いだ
もうお別れなのに、これで最後なのに
だから逸る気持ちを我慢した。船の中でも会わないようにしていた
それなのに、酷いですよ。雪代さん
これでわたしが一生雪代さんのことを忘れられなくなっちゃったら、どう責任取るつもりですか?
…いや、好きって気持ちに気付けずに ずっと無意識に好意全開で接してきたわたしにも非はあるかもしれません
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…だから、雪代さんだけを悪者にするのは些かわたしの信条に反しますので
これで、おあいこにしてください
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ゆっくりと両手を伸ばし 雪代さんの丸眼鏡を外す
そのまま少し背伸びをして 唇を押し付けるように ちゅ、と短くキスを返した
「…んっ、」
離そうとした唇を逃がさないとでも言うかのように、雪代さんにまた覆い被さるようにしてキスをされる
頭がなんだかふわふわして、足から力が抜けていくのが分かった
そのまま抱きつくようにして雪代さんに全体重を預ける
ああ、抑えていた感情が溢れていくのが分かる
好き。大好き。なんかもう、なんでこんなに好きになっちゃったのか自分でもよく分からないけれど、とにかく大好き
でも、雪代さんは…
雪代さんの一番は紛れもなくお姉さんで、雪代さんは抜刀斎に人誅を下す為に生きていて
雪代さんの弱みにだけはなりたくない
だから、これでお別れ
これが一番正しい 雪代さんを愛するものとしての進むべき道なのだ
どちらからともなく唇を離すと、再度 ぎゅう、と強く抱きしめ合い そのまま身体を離した
もう船内に残っている乗客は少ない
早く降りて名残惜しくなる前にお別れをしなければ と荷物を抱えると、雪代さんが布に包まれた何かをわたしに差し出した
「餞別だ」
「…?」
受け取って…、いや、受け取る前から何となく分かっていたが、このサイズ感、この重量
間違いなく…
刀だ。日本刀より長いから雪代さんの集めていた倭刀というやつだろう
「…?
戦え…と?」
「馬鹿か
どうせ文無しだろう。質屋にでも売れ」
ああ、そういう…
「…それを売って、その金でしばらく京都に泊まれ。東京には来るな」
「……」
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…繋がった。
あの日、故郷が東京だと伝えた時の雪代さんの表情を思い出す
言いたいことは沢山ある。すごく沢山ある。…けれども それらをぐっ、と飲み込んで 「はい」 と聞き分けの良い返事をした
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はな - 完結してかも何回も何回も読み直させてもらってます!いつか短編集も読めることを楽しみにしています🥺💗 (10月1日 23時) (レス) @page49 id: 5a141b2009 (このIDを非表示/違反報告)
武山(プロフ) - ちかさん» ありがとうございます😭‼️雪代縁よ…こうであれ…と欲のままに筆を走らせたのでそう言っていただけてとても嬉しいです😫💖短編集の方も欲望のままに書きなぐりますね🥺💗 (2023年1月27日 12時) (レス) id: ffc85090d4 (このIDを非表示/違反報告)
武山(プロフ) - 酒饅頭さん» うわ〜!嬉しいです!雪代縁を雪代縁っぽく喋らせるのめっちゃ難しいですよね…😂これほんとに雪代縁?となりながら夢主との掛け合いを書いていたのでそう言っていただけて安心しました!😭読んでくださりありがとうございます! (2023年1月27日 12時) (レス) id: ffc85090d4 (このIDを非表示/違反報告)
武山(プロフ) - ましゅまろぉさん» ありがとうございます!わたしもハマりたての時に探して え!?メリバしかねぇ!!!(卒倒)となり自家発電しました…😂嬉しいお言葉本当にありがたいです😭💗短編も頑張ります🫡💖 (2023年1月27日 12時) (レス) id: ffc85090d4 (このIDを非表示/違反報告)
ちか(プロフ) - めちゃくちゃ面白くて最高でした〜(;_;)(;_;) 武山様が書く雪代縁が大好き過ぎて何度胸が張り裂けそうになったか…短編集まで、書いてくれるのを考えてくれてらっしゃるだけで最高ですありがとうございました。何度も見返して雪代縁を堪能します(^^)/ (2023年1月26日 0時) (レス) @page50 id: d496fe5261 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:武山 | 作成日時:2021年6月24日 21時