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「あるじ、っ、ある、じ、あるじぃ…」

情けないへなへなとした声を上げながら泣く鶴丸を見て、三人も静かに顔をふせた。
こんなの、知らない方が良かった。知りたくなかった。大好きな人が穢されているのにとめられなくて、どうしようもなく無力で。
ああ、知らぬが仏ってこういうことなんだな。本丸の仲間も、主も、このおぞましい出来事を知らずに、明日も、明後日も、笑顔で生きていくのだろう。
知らない方が良いこともある。
鶴丸は、その事を強く実感した。

「…、ひぐ、誰、だ?」

涙で歪む視界に、いつの間にか現れた男。
Aもいつの間にか解放されていて、ぐったりと四肢を投げ出していた。
そんな彼女にゆったりとした足取りで近づく男。彼に気がついたAも、上体を上げて、腕を伸ばす。Aの瞳孔は、よく見てみたら蛇のように二つに割れていた。

「…主、なんで。」

男は見せつけるようにAを抱きしめ、そんな男に気づかず、Aもその顔を男の胸に擦り寄せた。
ガラスを挟んだ外にいる鶴丸は、男に絡み付いた真っ白でしなやかな腕を茫然と見つめる。
Aを抱きしめている男は、ふと、ガラスの方を向いた。
男の瞳は弧を描く。魅力されてしまいそうな、美しいエメラルド色をした彼の瞳孔も、また二つに割れていた。

鶴の残涙→←◇



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作者名:味噌田楽 | 作成日時:2021年5月23日 22時

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