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蠱惑と逆鱗 ページ2

メデュラはおもむろに振り向き、彼女の瞳が俺を捉える。蛇の瞳孔がきゅう…と細くなり、俺を優雅に嘲笑う表情。…やっと、俺を見てくれた。残忍に嗤われているというのに、蕩けるように甘美な恍惚感が俺を包み込む。俺はそれを隠す為におもむろに瞼を閉じ、表情を引き締めた。
「あら、そんなにこれが喰べたいの?」
 …そんな訳がない。主人の質問を無視し、白い綿の手袋を外して菓子を口元へ運ぶ。
 柔い口当たり。かと思えば、歯を立てるとじっとりとしていて重い。甘やかでほろ苦いケーキは、濃厚な味わいで口の中を支配していく。口の中の水分を奪い取っていくそれは、厭に甘くて吐き出したくなるくらいだ。…なのに、最後には深い苦味と甘味の残響しか残らなくて。それが酷く切なくなる。
「不味い」
「…不味いの?なら何故喰べたわけ?」
 メデュラは機嫌を損ねている。彼女は俺の作ったガトーショコラが好きなのではない。俺ごときに、「楽しいお茶会」を邪魔されたから。全く以て我が儘な…少し苛々して、主を突き放すよう呟く。
「毒味だ」
メデュラは大きな音を立てて机を叩いた。カトラリーがカラカラと高い金属音を奏で、ソーサーに溢れて体積の減ったリコリスティーがカップの中で波打っている。
「わたくしの喰べる分がないじゃないの!」
全てがお前の為にあると思うな、傲慢女…と毒づく代わりに敢えて慇懃に跪いて見せる。
「いえいえ、不味いものをお嬢様に差し上げる訳にはいきませんので」
は?とでも言わんばかりに眉をひそめる…この俺がご機嫌を取ろうとしてやったというのに、メデュラは益々お怒りのご様子だ。
「敬意がないわ。お前はわたくし無しでは生きることすら出来ないのに!」
 激昂するメデュラを一瞥し、指先に付いたガトーショコラを舐め取る。手袋を嵌めようとすると、腕を強く引かれ、指に生暖かい感覚があった。湿ったものがずるずる這い回り、何かに挟まれる。指が刺された感覚の後、ずきずきと強く疼き出す。
 見上げると、メデュラが俺の指を食み、残った僅かなガトーショコラを喰べ…俺の指を蛇の血を受け継いだ鋭い牙で穿った。何とも品格のない行動を…けれど、あんな気持ち悪いことをしてくるよりずっと良い。
「たかがガトーショコラに執着せずとも、俺はいくらでも作れる」
 …メデューサの出血毒。ご令嬢は相当お怒りのようだ。
 

「わがこころなきためいきの」→←甘美と傲慢



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作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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of3107uyui(プロフ) - はいいろトムちゃんさん» 初投稿なのにこんなに早く反応をいただけるとは…しかも美しいと…綺麗に描こうとしている身としては嬉しすぎます!ありがとうございます! (11月19日 21時) (レス) id: 046d413ab4 (このIDを非表示/違反報告)
はいいろトムちゃん - コメ失礼します。こんなに表現が美しい小説占いツクールに来て初めて見ました!!更新楽しみにしてます!! (11月19日 14時) (レス) @page1 id: 58e4ddea38 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みかなべ | 作成日時:2023年11月19日 13時

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