甘美と傲慢 ページ1
「お茶会をしましょう」
メデュラはそういうと、俺に目配せをした。
席は4つ、ティーカップは1つ、俺は給仕。いくら精巧にできているとはいえ、ドールはドールでしかない…どうせ虚しい一人遊びだ。こんなことをしている場合ではないというのに。
じきに夏だ。庭園には色とりどりの薔薇が咲いているが…メデュラは気付いて居ないのだろう。この広大な庭園が虚勢でしかないことを。メデュラの兄であるカンパネラが死んでからこのザーレッタ家は傾き始めている。お嬢様はこの家の苦境も、庶民の苦労すら知らない…当然だ。両親を殺されたことも、物乞い同然の生活になったことも、妹を拐われたことも、妹を救う為に一生消えないであろう傷を負ったことも、所詮格下である筈の家に仕えたことも無いのだから。ご立派な身分だ…憎らしい。メデュラが大切にしている時計仕掛けのドールでも売れば少しは金になるだろうに。
「ルチア、今日のハーブティは?」
「ローズとリコリス」
メデュラがティーカップを持ち上げると、薔薇の香りに混ざって微かにリコリスの甘い香りが漂う…はぁ、
「甘ったるいものは嫌いだ」
「そう?甘ければ甘いほどいいのではなくて?」
ご機嫌に傾けられたティーカップに、から紅に染められた唇がそっと触れる。黒いレースのあしらわれた襟からぞっとするほど白い首筋が顕になり、のどが微かに蠢動する。ほんのりと上気した頬、伏し目がちな長い睫毛、擽るような溜息…すべてが蠱惑的で…美しく、完璧だ。
濡れた唇が悪戯に弧を描き、お一ついかが?と囁くのは魂のないドールだ。俺はそれが癇に障って、メデュラの指からガトーショコラを奪う。
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of3107uyui(プロフ) - はいいろトムちゃんさん» 初投稿なのにこんなに早く反応をいただけるとは…しかも美しいと…綺麗に描こうとしている身としては嬉しすぎます!ありがとうございます! (11月19日 21時) (レス) id: 046d413ab4 (このIDを非表示/違反報告)
はいいろトムちゃん - コメ失礼します。こんなに表現が美しい小説占いツクールに来て初めて見ました!!更新楽しみにしてます!! (11月19日 14時) (レス) @page1 id: 58e4ddea38 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みかなべ | 作成日時:2023年11月19日 13時