定期魔法試験 下 ページ4
「魔法で的を破壊。それが今回の定期試験だ。が、まぁ簡単には破壊できないだろう」
何しろ僕らせんせー達が弱いとは言え防御魔法を掛けたので、ね。
そう言って三つ編みの少女――げふんげふん、十六夜先生は、楽しそうに星屑が散っているみたいな瞳を緩ませた。
瞬間辺りがざわめく。
それはこの事態に心を踊らせているのか、それともはたまた、未だかつて誰も『笑った所を見た事ない』先生が笑ったのを見たからか。
分からないけど、いや、多分両方だ。この学園の人達は種類は違うものの、皆が皆戦闘狂で噂好きだから。
「では、試練を開始します」
先生がこの世に存在する何もかもが凍り付くだろう、冷たい声を試験会場に響き渡らせると、賑やかだった会場は一転、一気にしーんと静まり返った。
見た目なんかただのか弱い幼女なのに、この威圧感。力とは才能とは、こう言う事を言うんだ、と暗に示しているかとさえ思えてくる。
そうこうしている内に出番が来て、少し汗ばむ手で通常より長めの杖をきゅっと握り直す。
「魔法科D組、四番、卯月遥。お願いします」
「始め!」
確か今までの生徒が使ってたのは、水か火……じゃあ消去法で風呪文で切り裂いてでも見ようか。
心臓部から腕、そして杖への魔力の流動を感じながら、もう大昔に覚えてしまった呪文を上の空で呟く。
そして杖先からは、やっぱり何も出ない。
――うん、いつも通り。そうだ、いつも通り。いつも通りの陰口を聞き流しながら次の人に視線を送る。
「命を喰い、も、燃え盛る紅き花よっ。散って 我に地獄を見せよ。中級呪文、れ、? 烈火華」
そこで事件は起きた。
年季の入った丸眼鏡を掛けた、大人しそうな女子生徒の杖から出て来た、美しい白にすら見える強い紅の花。
本来、的を焼き尽くす考えで打たれたんだろうそれはぱちり、ぱちりと線香花火の様な音を立てながら、アタシに襲い掛かろうとしていて。
皆は、青ざめた顔で一歩たりとも動かない。誰も、何も、口も開かずにただじっと虚空かアタシを見詰めてる。
視界の端からロケット顔負けの凄い勢いで先生が飛び出してくる。でも多分間に合わない、魔法の方がアタシに近いから。
取りあえずなんだかんだか言ってみたけど、死ぬって、それだけは馬鹿なアタシでも理解できた。
「「「いやぁぁぁぁあ!!!」」」
甲高くてやけに甘ったるい耳障りな悲鳴を耳に刻み込みながら、意識を失ってーー暗転。
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西夏(プロフ) - 綺麗な文ですね! (2018年8月11日 13時) (レス) id: 66c6e8cd96 (このIDを非表示/違反報告)
ましら(プロフ) - やはり、うたちゃんの文章は、日本の匠に作られたとても繊細で、太陽の淡い光を受けて佇んでいる硝子ザ細工が如く美しいよ。うたちゃんの文章をありがとう! (2017年1月30日 16時) (レス) id: 512c5a6245 (このIDを非表示/違反報告)
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