箱庭 (ページ9)

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セクハラかセクハラじゃないかページ9

志摩とて非常事態にそんなことを言っている時間が無いことは重々承知している。だが、それでもだ

2人乗りは後ろに乗る人間が絶対的に前方の人間を掴まなければバランスをとることはできない。故に、自身が彼女に、見知らぬ相手に接触する必要がある

相手の外見から把握するには歳もまだ若く、志摩とは10は離れていると見る。仮に非常時だからといっても訴えられたら志摩に勝ち目はない

まだ逆であるなら理解がてきるが、バイクの運転(しかも2人乗り)は少々自信がない。そんな志摩の心境を汲み取ったのかバイクに跨がったままAは笑った

『2人乗り程度でセクハラなんて訴えませんよっと』

「お、おい」

強引に志摩の腕を掴むと遠慮もなくバイクの後ろに乗せる。戸惑い気味だった志摩もこれ以上はどうしようもないと諦めている

しかし何処を掴むべきかとヘルメットを被っている最中、ぐるぐると頭の中を回る疑問は解消されない。バイクで、しかも女性の後ろに乗ったことはないので当然だ

『適当に肩……は危険よねえ。腰のベルト掴んでくれれば結構ですよ』

「………………失礼します」

『はい、どうぞ』

かなり不服ではあったものの志摩が腰に装着されたホルスター付きの頑丈なベルトを掴んだおかげで漸く発進できる

地面から足を離しエンジンを再び稼働させれば後は風に乗せられ走るだけだ

『志摩さん、伊吹さんは何処に?』

「容疑者車両が芝浦に向かったと連絡がありました。そこからは……」

そこで志摩の言葉が切れ、片手がベルトから離れた感触をAは感じ取った
恐らく伊吹からの無線を受信したのだろう

実際、それは当たりだったようで呟くように志摩が余計なことすんじゃねえぞと口にしていた

「すみませんこの先の倉庫街にお願いします」

『わかりました、掴まっててくださいね』

グッとハンドルを強く握り徐々に速度を上げていくバイクの先にはもう倉庫街がすぐそこまで迫っていた