箱庭 (ページ49)

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それぞれの追い方ページ49

階段を登った先では黒いキャップに黒っぽいジャージを着ている、体格からして男性と思われる人が一人こちらを見下ろしている

いたずら通報の常習犯であるのは間違いない。と痛む頭の中で思考は巡る
てっきり伊吹くんがすぐに後を追うかと考えていたが、彼は心配そうに眉を八の字に曲げて私の顔を見ている

「A、歩けるか?」

『……大丈夫です』

私と伊吹くんの様子を静観していた志摩さんが落ち着かせる為にぽん、と背中を軽く叩いた
その気遣いに僅かに乱れた呼吸が落ち着きを取り戻していった。大丈夫、問題ない

次第に頭の中に響く頭痛の要因も徐々に勢いを減らし、消えていく

「こっちは任せろ。…お前は勝てるんだろうな?」

「……任せとけ、余裕」

まだ不安な様子で瞳を揺らす伊吹くんにもう大丈夫だとその肩をぽすっと叩いた
驚いた顔はみるみる普段の笑顔に変わって私の頭に優しく触れた

走る構えをとった伊吹だが、男は逃げる体勢もとらず何かを待つように見下ろしている

「逃げねえのかよ」

「いや、合図がいるんじゃない?こういうときにかける言葉」

そういうことか、と伊吹がにやり口許を緩めた。外していた耳栓をAが着用したのを確認した志摩が伊吹と顔を見合せ口を開いた

「「待て、警察だ!」」

二人が叫んだ途端、男性は駆け出した。それを伊吹が追い志摩はさて。とAに向き直る

「A、もしかしなくとも耳が良いのか」

『……はい。けど、その話をするより先に車に戻りませんか?』

犯人、追うんですよね?
さも当たり前に問うAに志摩は思わず笑ってしまった

車内に戻るとAは後ろからこの辺り周辺の地図を取り出し志摩に手渡した
地図に記されたのは幾つも道筋を辿る赤、青、黄色のマーカー

「相手の逃走経路か」

『絞るのが大変でしたけど…もしこの公衆電話が使われるならこの3つかなあと』

「それなら使われる道はこのルートだ」

志摩が指差したのは赤い道。Aが最も可能性の高いと踏んだ道を選んだ

「青は直線的過ぎるし黄色の道は遮蔽物が多い。単独犯なら青色の可能性もあるが…それなら今頃伊吹が連絡を入れる」

車を回し公園の裏手に旋回する車内の会話は伊吹がいれば、どういうことか説明しなければならない。しかし、ここにいるのは手よりも頭が先に回る刑事である

説明は全く不要であった