箱庭 (ページ34)

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信じるもの、疑うものページ34

加々見を疑いかかる私と志摩さんに対して加々見を信じたい伊吹さんは説得するようにいやいやいやと横に首を振った

「考えてもみろって。朝会社来て上司が死んでたらビビるでしょ?そこへ他のやつが来て、自分が犯人だと思われる。そりゃあさあ、慌てて逃げたくもなるよ」

『現場から逃げる心理はわかりますけど…』

パニックに陥った人間は目の前の現実から逃げることを第一に考える。逃走する根拠もわかる
だが、それだけで逃げ続ける理由にはならない

東京から山梨まで来るこの時間で多少は加々見も冷静になっている。無実であるなら警察から逃げることがどれほど危険なことかも

「自分が来てたときには既に死んでましたって正直に言えば済む話だろ」

「いいや、すまないんだよ。俺には分かる」

『どうしてですか?』

「刑事になっても職務質問される俺には分かる」

自慢げに言う伊吹さんにそれは格好の問題だろうなあと思ったが黙っていた

「大抵の犯人はやってないって言うんだやってても」

「中には本当にやってないやつだっているだろ?」

「いないとは言わないけどさあ」

「志摩ちゃんさあ、少しは人を信じてみなよ」

ぱちくりと閉じたり開いたりする志摩さんの瞬きについ笑いそうになる
初めて合ったときといい、意外にこの人もわかりやすい顔をしている

くすりと笑みが漏れた

「バカか!…ってバカなのは知ってたわ」

「知ってたなら聞くな!」

「はぁ…違う。人間の野生の馬鹿なのは知ってた。刑事としても馬鹿なのか」

「それほぼ意地悪な」

『お二人とも』

とはいえ、容疑者の乗る車を追跡している途中で口論していることを寛容するのは宜しくない
それに、桔梗さんに二人のリードを持つように頼まれた

お仕事は、やらなければならない
二人の肩を掴んでにっこりと笑った

『お静かに、お願いしますね』

「……はい」

「…はぁい」

ぱっと手を離すと志摩さんの鞄からぴこん、と連絡の通知音が鳴り響く
後ろにあった鞄を志摩さんに渡すと鞄の中に手を突っ込み探る

端末を見つけると志摩がひとつ言わせてもらうと口を開いた

「俺たちの仕事は疑うことだ」

「はははっ、それ誰が決めたんだよ」

「はあ?」

「加々見のこと信じてやる刑事が一人くらいいたっていいじゃんか」

端末を扱う指が止まった。
その頭の中で考えているのは肯定か、否定か

「駄目だろ」

「えっ駄目!?」

否定でした