箱庭 (ページ29)

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信じることページ29

発進したメロンパン号は意気揚々と対象の車を追いかけ続ける
何処に向かうのか一向に止まる気配はない

この先は国道15号、神奈川への進路でしかない。目的地があるのか、それともただ東京を出たいだけか…考えものだ

「東京出ちゃうな」

「えっ出たら駄目なの?」

『出る場合は他の都道府県警察との連携の為に捜査共助課への報告と、本部と連絡がとれるよう通信部に広域通信リンク入りを頼まないと駄目なんですよ』

「へぇ～。いちいち無線入れなきゃいけないんだ」

無線で本部に連絡をとる志摩さんに代わり伊吹さんに教えていると、意外にすんなりと理解してくれた

連続煽り運転傷害事件で犯人相手に規則なんてどうでもいいと言っていた本人とは思えない。やはりあれは演技だったのだろうか

「ん?どうかした?あ～、もしかして俺に見惚れてたとか?」

「ないだろ」

『いいえ?』

「疑問符がついてるってことはそうじゃないこともないってことでしょ～!」

「ポジティブ過ぎる…」

通信が終わった志摩さんが引き気味に会話に混じると突然、伊吹はにやにやと喜色を浮かべて志摩を見る

「俺のこと、信じてくれるわけ?容疑者が乗ってるって話」

「あ、信じてない」

「なんだよ!」

「さっきの警官も信じてない」

てっきり伊吹だけを信じていないのかと思えば志摩は警官までも信じていないと口にする。ああ、やっぱりなあと二人の話を聞いていた私は黙っている

「可能性が０になるまで確認する」

「あー。他人も自分も信じないだっけ?」

伊吹の問いかけに志摩は無言を貫く。それは肯定とも捉えられる返事。しんとした沈黙が場を支配する

「……俺さ」

静かな空間に水を差すように伊吹が口を開いた。それは志摩やAに話しているようで、独り言でもあった

「昔から職務質問されるんだよねぇ」

「…だろうな」

『あら……』

「学生のときも学校で備品がなくなったって言えば伊吹じゃねえかっていっつも俺が疑われてさ。
もう言い訳すんのも嫌になって、信じてくれなくていいや。だったら俺も誰も信じない」

それは、今の伊吹とはかけ離れた人物であった。伊吹は誰彼構わず人を信じる傾向にあるある意味危なっかしい人だ

だが、彼から口にされるのは違う危うさをもつ別人であった。強くて脆い、一歩間違えれば簡単に傷つく少年だった