箱庭 (ページ25)

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根拠を述べよページ25

『前の車両は運転席に男性、後部座席に女性が座っています。本来、よほど仲が良くない限り車に乗車するとき、座る位置は助手席。この時点で違和感を感じました』

うんうんと強く首を振る伊吹さんとは反対に志摩さんは冷静に黙って私の話を聞き入る
一度、言葉を区切れば続けてくださいと催促された

『更に女性はメロンパン号の外観に気をとられているのかと考えましたが、女性は目が合うと上体を動かさず、しきりに後ろを気にするように目線だけで訴えていました。それは、運転していた男性も同じです』

「…だから、後ろに容疑者が乗っている。と」

『私は黄緑の袖を確認していないのでわかりませんが…伊吹さんのフードを掴んでいた発言も、血縁者や知り合いであるなら余程のことがない限りあり得ない』

「前に倒れるのが危ないから引き戻した可能性もある」

首を横に振った。それはあり得ないことだと志摩さんもうっすら気づいている筈だ

『ありません。引き戻したとしたら座っている位置がおかしいです。前方の車はおよそ五人乗りのコンパクトカー、荷物置き場にわざわざ乗る必要がありません』

それに…と続けてからこの先を言うべきかどうか迷った。これから先はあくまでも推論であり、根拠ではない
志摩さんはきっと確信がなければ切り捨てる。言っただけでも無駄かもしれない

開いた口からどう言葉を紡ごうか悩んでいるとまるで思想を見透かしているのか切り捨てないから、と真剣な眼差しで告げられた

「切り捨てないから言ってください」

『……人は、窮地に陥ったときにまず神という偶像を頼ります。高齢になればなるほどその推移は昔からの風習により上がり、実際女性も胸の前で両手を組んでいました』

だから容疑者ではないにしても、誰かに脅されているかと。そう言い切った

沈黙が暫し車内を襲いかかる。やはり駄目だっただろうかと志摩さんを恐る恐る見る
彼は伊吹さん同様ただ前を行く車を見据えていた

「……走る、人質監禁立て籠り?」

うんうんと首を激しく縦に振る伊吹さんからこちらへ、動いた視線に静かに頷いた
前方を走る車が信号機が青になったので動き出した

このまま動かなければ見失ってしまう。焦燥に駆られたそのとき、志摩さんが無線機へと手を伸ばした