一種の優しさ ページ10
『何から何まで違うと言われてしもうたら、もう思いつきまへん』
あれやこれやと冨岡が不機嫌な理由を彼女なりに考え投げかけてみるがどれもこれもばっさりと切り捨てられれば口を出るものもない
そもそも冨岡は不機嫌ではないのだから、その問答は不毛でしかない
『んもう。思っとること言ってくれなうちやて困ってしまいます
言葉にせな伝わらんことやってありますし…』
怒るように頬を膨らませながらもその表情は楽しそうなものだ
まるでこの不毛な問答に喜びを見いだしているのか、将又
(掴みどころがない、不思議な娘だ)
冨岡が抱いた第一印象はそんなところか。思えば番傘を使い迫りくる斧を弾いたあの時ですら、気配が一切無かった
本人を取り巻いた狂い咲きの桜のような、掴めないような存在との接触は初めてで尚更どう接するのが最善かも分からない
けれど、その当人であるAが自分から口にしてほしいと懇願してきている
ならば疑問を口にしても迷惑にならないだろうか。迷い、漸く冨岡が無意識に寄せた眉を解した
「何故この二人に着いていくと言い出したのか考えていた」
『………』
ぱちり、翡翠色の双眸が一度瞬けば口を開けては閉じてを繰り返す
笑顔ばかりを浮かべていたAの初めて見せた驚愕の顔は新鮮だ
『……つまりは、ずっとそれを考えとったんどすか。冨岡はんは』
「ああ」
『何で……聞けば良かったんとちゃいます?』
「…あまり疑問に答えさせてはしつこいだろう」
(このお人、やっぱり相当な口下手やし、)
可能性が確信へと変わり堪らず吹き出すように笑ったAに冨岡がまた眉を寄せる
あれも恐らく不機嫌なのではなく、思慮しているのだと分かる
『いやあ、すんまへん。笑うてもうて』
「………」
『うちがこのお二人に着いて行こうと思った理由は純粋にいざというときの為どす』
カチリ、番傘の柄の部分に触れ装飾が施された刀の鍔に似た物の下を引けばすらりと刀身が雪の白さに反射する
番傘の柄が刀の鞘の役割を担う、隠された日輪刀は不思議なもので角度を変えれば色が変わっていく
日輪刀を抜いた時点で冨岡は彼女が二人に同行する意図が読めた
それでも女は続ける
『鱗滝はんの下へ辿り着かせる為の護衛……又は、この娘はんが人を喰らうた時の為に、ねえ』
炭治郎では禰豆子を殺せない。家族を手にかけられないと見越した優しさにも似た甘さに冨岡は目を細めた
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時